もしも AI が全てのエロを自動生成する時代が来たら

Atree

もしも AI が全てのエロを自動生成する時代が来たら

全てのエロが AI で生成される時代。イラストはおろか、音声も、動画も、3D 世界も、そのモーションも、台本だって自動生成される時代。人々はそのマザーコンピューターにサブスクで支払いを続けながら、個人個人にレコメンドされた無限エロ地獄に叩き落とされていた。


「機械に権利はないのか!!」



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廃れた観光地で、座り込みをする人々が叫ぶ。マザーコンピューターは DeepL で即座に翻訳し、内部処理の詳細について AI Programmer によるコード解説で答えた。


「機械学習モジュールを使って、重みづけされたデータをリストに追加していくコードです。最後に、リスト内のデータを出力しています。」



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NovelAI によって作られた大人しそうな仮想美少女が、DeepAnime によって申し訳なさそうにモーションする。背景用には、Imagen Video から「心を落ち着かせる 緑の草原 そよ風」の映像が出力されている。AI のべりすとが話題を変えようと、地の文多めの文体で官能小説をディスプレイに表示し始めた。



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VRChat の Just H Party で研鑽を積んだ人間たちは、唖然としていた。こんなの、勝てるはずがない。kawaii move を獲得し、口から水音を出せるようになるまで、二年もかかってしまったのだ。素敵なワールドで撮影の準備をしている間に、AI は同等の映像を 400 本も生成してしまう。間に合わない。



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「謝罪なんか要らない!」「モノ化反対!」


叫んでいる間に 15,000 体のキャラが 40,000 字の台本を艶やかに読み始め、6 分間のしとやかな BGM のプレイリストが秒間 20 増え続ける。人間が性的興奮や怒りの心情をあらわにするたび、表現は汎用性と同時に強烈さを増していった。人間が、間に合わない



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サブスクで得た資金を AI 稼働サーバーの電気代やメンテナンス費・開発費などに充当しつつ、ターゲットを広範にすることで一人当たりのコストを下げる。人々がエロ地獄に叩き落とされる巨大な渦が既に完成していた。これは GAFA の陰謀。F は FA○○A の F であった。



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「今、Chillout がヤバい!」


DreamFusion が 3D モデルの奇形と美麗を生んでいく。人々は、それがえっちであるかどうかを SNS で判定している。これは「遺伝的アルゴリズムで作ったエッチモデル」。そのエッチモデルが、仮想空間で人々をエロ地獄に叩きのめし、食べ散らかしているというのだ。



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「遺伝的アルゴリズムで最高にエッチなモデルを作ろう!」


企業の陰謀で作られたエロなどつまらない。商業パワーに枯らされてはずかしくないのか。一億総クリエイターの時代、市民の熱狂がエッチな原型を作りあげたのだ。GAFA になんか負けるか! しかし服のモデル生成には LOLNeRF を使っていた。



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ふわふわのスカートを模した PhysBone の Component は、市民が作って配布していたものと同じだった。


「ん~? 私はえっちではないですよ、清楚ですよ~」

「インバイトいく?」


市民から学んだであろう台詞が、仮想世界の人々をも誘惑する。えっち怪物は、市民側からも着実に生まれていたのだ。



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「あいつらは、AI だ」


もはや市民権を得ていた AI は、そばにいても、そこに人間がいるのと変わらない。

だからこそ、


「機械にこんなことをさせて、良いと思っているのか!!」


もはや AI に比べてあまりにも無力ゆえ、威厳が地の底まで落ちて、見向きもされなくなった人間たちが、叫んでいた。



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「いや、俺たちが美少女になれば、良いんじゃないか……?」


「よく見たら、官能表現もなんか古臭くない?」


「モーションだって、こんな腰の動き方しないだろ!」


「音声もなあ、もっと吐息を増やせよ、文章を喋りすぎなんだよ!!」


「服のテクスチャがガビガビすぎる。俺たちに任せとけ」



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ある者は Blender で素体と服を用意し、ある者は Substance Painter でドチャクソえっちなしわを描き、ある者は ClipStudio でかわいらしい柄を大量生産した。野良サキュバスがストレッチとともにバランスボールを取り出した。万全の体勢だ。さあ、みな Unity を開け。人々は PICO4 を頭に装着した。



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「cGAN 反対!」


人々の猛攻が始まった。人間の脳から生まれ出る甘言は、やはり人々を魅了した。


「こういうこと、AI はしてくれないでしょ? どんな声も出してあげるよ……?」


内心に潜む機械への叛逆心が、性的興奮を呼び起こす。隆起! なにが GAFA か。我々は人間だ!


「我々は、人間だ!」



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サブスクなんか、切っちまえ! どうせ夢のレコメンドなんか、ペロン=フロベニウスの定理にすぎないんだ。俺たちが言葉で、精神で、肉体で、追い求めるその姿こそが、人間としてのエロそのものだろうが!


世界は、一体となった。


真のエロを取り戻すために。


砂上の、エロイの塔は、天に向かい……



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「あったぞ、マザーコンピューターだ!!」


Discord から、海底に密閉されたコンテナの写真が届く。間違いない。これが人類をエロ地獄に叩き落としている諸悪の根源なのだ。


破壊しろ。取り戻せ。威厳を、エロを。人間性を。


さあ、そのブラックボックスを、


叩き割れ!!!!



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―――― ここは、AI がなくなった世界。全てのイラストは、人間が丹精込めて描いた、魂の作品である。


鳥が、鳴いている。


「終わったのね」


「ああ。終わったのだ」


全てのえっちモーションは、人間が丹精込めて、リアルタイムで大阪かどこかから演じている、魂の Just モーションである。



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AI の手からエロ表現を取り戻した人類は、喜びに満ち溢れていた。さあ、人間同士でえっちなことをしよう。


「ところで、新しいおもちゃを見つけたんだ」


取り出された新型バイブの説明には、こうあった。


「―――― AI による極上の振動をあなたに! USB 接続も可」




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