第69話 フルジリアとこの世界
「そういえば何となく冒険者が少なくなった気がするんだけど?」
「あぁ、それはフルジリアに向かったからじゃないかしら」
「フルジリアに…?」
その国の名前にドキッとした
「なんでもフルジリアが召喚した勇者様の一人が闇の森の攻略に入ったらしくてね、その勇者様が女性だって聞いて浮足立ったのが向かったみたいよ」
「闇の森の攻略に…」
一人というなら最初に討伐を始めたエミか、それとも数日後に始めたサキだろうか
流石にアキナの線は薄いかな?
この世界に来てもうすぐ1年と考えれば決して遅くは無いんだろうけど…
「ミリア?どうかした?」
メルが心配そうに覗き込んで来た
「あ、ううん。何でもない。勇者って女性だったのね」
誤魔化す様に敢えて訪ねてみる
「そうなのよ。何かね、召喚されたのは4人で、そのうち3人が女性なんですって。凄いわよね!」
メルは期待に満ちた目をしてそう言った
「闇の森の魔物が森から溢れたらこの世界はとても耐えられないもの…攻略を成功させてほしいわ」
「…ひょっとして過去にそんなことがあったりするの?」
「ええ。私も祖母から聞いただけだから詳しいことまでは分からないけど…一度この世界は滅んだって言われてるのよね」
「滅んだ?」
流石にそれには驚いた
「ええ。魔物が町を、町にいる人を襲いつくして再び森に戻るまで3か月近くの間、人々は恐怖に包まれたらしいの。その時に生き残った人は数えるほどで、そこから少しずつ復興したみたい」
「そうなんだ…」
「復興する時に真っ先に築いたのが町を囲う塀だったんですって。それまでは国同士で領地をいかに広げるかの争いをしてたけど、それからは塀の中をいかに繁栄させるかに焦点を当てるようになったみたいね」
なるほど…だから町と町をつなぐ道の整備すらされていないのかしらね
渡り歩くのは商人と冒険者だけ
他国と関わることもないから自分達とは違う者を恐れる
それ故の亜人の迫害…
納得したくない何かがそこにはあった
「ただその…魔物が溢れたのはフルジリアが原因じゃないかとも言われているのよ」
「どういうこと?」
「フルジリアが領土を広げようとしたら闇の森を避けては通れないでしょう?北の森を抜けるという手もあるけどフルジリアの戦力では叶わなかった」
「まさか…」
「そのまさか。フルジリアが自国のまもりを固めた上で…という線が濃いみたい。その証拠にフルジリアだけは滅ばなかった」
「!」
それが本当ならどれだけ身勝手なのだろう
証拠はないとは言え状況はそれが事実だと訴えているからソトニクスも含めフルジリア以外の国ではそう信じられているのだとメルは言う
神様はそこまで教えてはくれなかったけど、あの人たちは基本的には聞いたことに答えるだけだものね
それにそんな遥か昔のことなど必要ないと思っても仕方ないか…
実際知ったところで悪感情が強くなる以外何もないわけだしね
正直知らない方が穏やかな心のまま過ごせたかもしれないわ
「流石に昔と違って国や町を守る体制は整ってるし冒険者も増えたから、たとえ同じことが起こっても再び世界が滅ぶってことはないとは思うんだけどね」
「そう願うわ…」
「冒険者がフルジリアに向かったのは興味本位ももちろんあるだろうけど、その辺も少しは絡んでるかもね」
「え?」
「ほら、闇の森から魔物が溢れれば今自分たちの家族や知り合いがいる場所が襲われることになるじゃない?」
当然の様に言われた言葉が重く響く
確かに3人への興味は大きいだろう
それ以上に不安なのかもしれない
勇者が召喚されること自体非日常の出来事だもの
闇の森に最も近いフルジリアがその勇者を召喚した
その勇者が闇の森の攻略を始めた
それが一体何を表すのか…
そういう意味では冒険者が移動するのも当然なのかもしれない
勇者召喚に失敗された私は神々の愛し子になりました 真那月 凜 @manatsukirin
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