第68話 嬉しい知らせ

「姉ちゃん今日は出かけるのか?」

普段と違うと感じたのかレオールが聞いてくる

そんなに露骨な態度を取ってるつもりはないんだけどなぁ…

「うん。今日は町に行こうと思って」

「…1人で?」

「そのつもりだけど…」

そう返すとじっと見返された

何かあっただろうか?

「レオールは漁に連れて行ってもらうんでしょう?」

「そーだけど…」

何故か不貞腐れた


「今度行くときは一緒に行こうね」

「…ん」

少し気分が上向いたもののまだ納得はしてない感じ?

こういう時どうしていいかわかならくて困る

今度カイナたちに聞いてみよう

「…おやつがわりに唐揚げ…と思ったけどいらないのかな?」

「っ…いる!」

ジャーキーは子供達だけで作ったりしてるおかげでかなり手持ちがあるはずだけど、それだけで満足というわけにはいかないらしい

餌付けしてる気がするのは気のせいと言うことにしておこう


「じゃぁこれ」

「こんなにいいの?」

大量に取り出したのを見て驚いている姿はあどけなくてかわいい

「みんなと食べるんでしょう?」

今日は何人で行くのかは知らないけどこれだけあれば問題ないはず

レオールは唐揚げを前にして機嫌が直ったようでそのまま出かけて行った


「さて行きますか」

私は町の側に転移すると少しだけ歩いて門を通る

向かう先はメルの商会だ

「それにしても随分人が少ないわね」

呟きながらあたりを観察する

冒険者と思わしき人が普段よりも少ない感じがした

何かあったのかしら?

独りでどれだけ考えても答えが分かるわけもなく気づいたら商会の前にいた


「あ、ミリア!」

扉を開けて中に入るとマリオがすぐに気付いてくれた

「久しぶりねマリオ」

「いらっしゃいミリア。母さん!ミリアが来たよ」

店内に他のお客さんがいないせいかマリオは奥に向かって声を張り上げた

その少し後にメルがいそいそと出てきた


「いらっしゃいミリア」

「久しぶりメル…ってあなたもしかして…?」

ポッコリ膨らんだお腹

それは肥満のそれとは様子が違う

「ふふ…今7か月よ。ここまでくると流石に気付かれるわね」

メルは笑いながら言う

「7か月って…私その間何回も商会に来てるのに…」

全く気付かなかった自分が情けない

もっともこの2か月程は来てなかったんだけど


「もっと早く言ってくれればいいのに…おめでとう!元気に生まれて来てくれることを祈ってるわ」

「ありがとう。今日は時間あるの?少し向こうで話せないかしら?」

「もちろん大丈夫よ」

メルの言葉にそう返すと応接間に案内された

当然の様にマリオが飲み物を持ってきてくれる

「ぼくが店番してるからごゆっくり」

本当によくできた息子だわ


「ちょうどミリアに連絡しようと思ってたのよ」

「妊娠のこと?」

「ええ。それでもうすぐ店に立つのが難しくなりそうだから短期で人を雇う予定なんだけど」

「まぁそうよね。産前産後は流石にゆっくりしてないと」

「それでね、できればミリアの知り合いの亜人の奥さんに手伝ってもらえないかと思って」

「ダリとカイナのこと?彼女たちは多分大丈夫だと思うけどお店としてはいいの?」

亜人は何かと受け入れられないことが多い


「最近、冒険者のお客さんの方が多いのよ。その4割が亜人だったりするのよね」

「そうなの?」

それは驚きだわ…

ホークたちが素材が売れることを里帰りした時に話したりするせいもあって登録する人が増えたのは知ってたけど…

「シビルの事もあって好意的に広まってるみたいなの。おかげで売り上げ倍増よ?」

メルは嬉しそうに笑いながらそう言った

確かにメルはシビルが亜人と知っていて刺繍を任せてくれている

その買取価格も人と同じなのはとても珍しい事らしい

シロヤがその嬉しさと共に里帰りした時に散々聞かされたと言って足を運んでくれるお客さんも多いという


「これが待遇ね。毎日になるから2人で話し合って都合のいい方が来てくれたらうれしいわ」

「わかった。話をしておくわ。いつからか希望はある?」

「できれば可能な限り早めで。覚えてもらわないとだし…」

「そうね。1日2日で覚えれるわけじゃないものね」

店の規模を考えれば当然だわ

ダリもカイナも良く動くし覚えもいい上に機転も利く

そういう意味ではここの手伝いはあっているのかもしれない

私たちは暫く待遇や仕事内容について話を続けた

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