第9話



 結愛の風邪が治ったということもあり、俺と結愛は二人で水族館に来ている。もちろん御坂のことも呼んだが、『二人で楽しんできて』と断られた。御坂が来ないことを知った結愛は悲しんでいたが、俺は愛人ならこの場面は来ないよなと不思議と納得できていた。


 そんなこんなやり取りがあり、ようやく二人で水族館にこれている。土曜日だけあって水族館内に家族やカップルが多い。

 

「はぐれないように手繋ご?」


「……おう」


 結愛から積極的に来て反応に困ったが、差し出された手を握った。


 こんな光景、何も知らない第三者が見たら愛人という関係ではなくカップルだと思うだろう。水族館に遊びに来ているが、これは見方によってはデートそのもの。

 

 そう思うと、気が引き締まる。


「律斗律斗っ! 見てこのタコ! めちゃくちゃ大きいんだけどっ!」


「ちょ、あんまり大声で俺の名前呼ばないでくれよ……。もし近くに誰か見知った人に俺たちのことを見られたら、絶対勘違いされちゃうから」


「律斗は今の私たちのことを誰かに見られると嫌なの?」


 風邪をひいていたときのような甘ったるい声で聞いてきた。


「か、勘違いされるのが嫌なんだよ」


「じゃあもし誰かに見られたら「私たちは愛人っていう関係なんですっ!」って言うね!」


「いやそっちのほうが勘違いされるんじゃないか?」


 俺の言葉に結愛は不満そうにぷくぅ〜っと、近くにの水槽にいるふぐのように頬を膨らませてきた。


「もう。ならどうすればいいのさっ。手を繋ぐのやめる?」


「それはちょっと……」


「じゃあこのままでいいよね?」


「う、うん」


 誘導尋問のように言いくるめられたきがするが、手を繋ぐのをやめることを引き合いに出されたら勘違いされるのを飲み込まなければならない。


 結愛は俺が首を縦に振ると「るんるん」と自然と鼻歌を歌うほど、上機嫌になった。


 水族館はただ海の生物を見て回るだけなのだが、楽しそうな結愛が隣りにいたおかげで今までで一番楽しく感じた。


 楽しそうな結愛に目が奪われながらも、一通り水族館を回り終えた。

 

 巨大な水槽の前にあるベンチに座り、ひと休憩。


 周りにはカップルがたくさんいて場違い感がある。


「律斗っ!」


「なに?」


「これからイルカショーあるんだって。見に行こっ!」


「お、良いね」


 あまり休めなかったがイルカショーをする会場についた。だがどうやらもう少しイルカショーまでは時間があったらしく、空席だらけ。


 数ある席から水しぶきが来ないであろう真ん中あたりの席に座ったのだが……。


「なんで千弘がいる?」


「それはこっちのセリフだわ」


 隣りに千弘と、千弘の彼女が座っていた。


 普段おしゃれをしない千弘が気合いの入った服を着ているので、今はデート中なのだろうか。


「あ、律斗さんと結愛さんじゃないですか。お久しぶりです」


「どうもどうも」


「久しぶりっ!」


 俺たちより一歳年上の紗也さやさんは、あのぶっきらぼうな性格の千弘にはもったいないほどきれいな彼女さんだ。


 いつ別れるんだろうと思って見ていた中学生時代が懐かしい……。


「おい律斗。今お前、なんか失礼なこと考えてなかったか?」


「いや別に?」


 本当はかなり失礼は事を考えていたけども。


 俺が冷や汗でどうにかなりそうになっていたが、千弘は「そんなことよりも」と話を切り出してきた。


「いつの間にお前たちって二人っきりで手を繋ぎながら水族館に来るような仲になったんだ?」


 言葉に困り、俺が黙っていると隣の結愛が口を開いた。


「ま、まえから私たちはこういう仲だったもんっ!」


「へぇー……。でも、この前愛人がなんとか言ってたときはそんな親密な仲のようには見てなかったんだけどな」


「そ、そ、そ、それは千弘の見る目がなかったんだよぉ〜だ。私たちは元々こういう感じの仲だからねっ!」


「なるほどなるほど。ということは、これ以上俺は変な詮索をするなってことだよな?」


 なぜその質問を俺に振ってくる。  


「まぁ色々あったんだよ」


「そうか。たしかに、結愛の顔を見れば色々あったのが一目瞭然だな」


 千弘は結愛の顔を見てなにかに納得した。普段から俺たちの異変に気づきやすい千弘のことなので、愛人から進展がないことは見破られているんだろう。


「じゃあ俺たちはもうちょっと水族館を回るから、ここでお別れだな。また学校で」


「おう」


 イルカショーを見終え、千弘たちは大きな水槽がある方へ歩いていった。


 先程まで目をキラキラさせながらイルカショーを見ていた結愛は、終わってしまったという喪失感に襲われている。

 もう周りはいなくなったというのに、結愛はだだをこねている子供のように座り続けている。


「結愛。俺たちはどうする?」


「イルカショー終わっちゃった……。もう終わっちゃったんだよ……」


「今日はもうイルカショーやらないからな……。今度は御坂とも一緒に、3人で見に来よ? そっちのほうが百倍面白いと思うよ?」


「たしかにっ!」


 結愛の心に俺の声が届いたらしい。次来ることをうきうきしながら席から立ち上がった。


「これからどうする?」


 もうとっくに夕方だ。このまま解散というのもいいのかと思ったが……。


「家に来ない?」


 結愛の思いがけない言葉に、俺の心臓は飛び上がった。


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二人の幼馴染とノリで愛人になった でずな @Dezuna

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