第十六話

 彼らが哀れな二匹の子山羊を如何様にバラそうかを話しているうちに、今彼等のいる廃工場を警官達が包囲していた。ベレッタM8000を保有する瑞樹に対して防護盾を構えていつでも突入することが出来るように準備していた。その警官達の中に今も動画配信をしている青年とよく似た顔をした女性が居た。名前を新島にいじま 叶羽かのはと言い瑞樹の2コ上の姉である。階級は巡査長と言い下から2つ目の階級では有るが、警察法という法律で決められた階級の中では存在しない階級である。階級としては正式な名前ではないが警察の実務上存在する階級である。因みに刑事ドラマ等でよく聞く「刑事」はこの巡査長とこの下の階級である巡査のことを言う。


「アイツ…一体何を考えてるの?」

「新島巡査長」

「分かってるわよ。犯人が弟だからって容赦しないわよ」


叶葉が瑞樹が何故ここで配信をしているのかを考えていた。工場の出入り口は全て警官が塞いだ。どこから出ても確実に警官に見つかってしまうだろう。自らの首を絞めかねないような場所で、自分の居場所を探られやすい配信を行っている……。何かを企んでいるのだろうが一体何を企んでいるのかが全く読めないのだ。


「アイツが何を考えていようが関係ないわ。ここで捕まえて牢屋に打ち込む!!」


そんなふうに意気込んでいると配信に動きがあった。椅子に手足を縛り付けられた二人に瑞樹がベレッタを突きつけていた。二人は死にたくないと大きな声で叫ぶが聞き届けようとしない瑞樹は撃鉄を起こす。


『待ってお兄さん。私がやる』

「……まさか?」

『えぇ〜。どうせやるってんなら母親にしろよ。今まで自分を虐げてきたのは母親なんだろ?ならお前が殺すべきはこの豚じゃない。そこで醜い悲鳴を上げてやがる猿を殺すべきだ』


その言葉を聞いた叶羽は携帯を握り潰しそうになった。年端も行かぬ少女を攫い、彼女の両親を目の前で殺そうとしておきながらお前も殺すだろ?と嗤っている瑞樹が許せなかった。助けを求めている人がいるのに何も出来無いのが悔しかった。


「新島巡査長、いつでも突入できます!」

「分かったわ」


視点変わって廃工場の中。瑞樹はたちばなひとしにベレッタを突きつけたまま笑みを浮かべていた。いつでも引き金を引けれるようにしたまま。


「アニィ、囲まれてますぜ?」

「俺と似た顔のやつ居る?」

「居ますけど母親っすか?」

「俺が自分の母親をぶっ殺したの知ってて言ってる?」

「いやあまりにも似てるもんで」

「姉だよ」

「似過ぎじゃない?」


椛と遊は遊がハッキングした防犯カメラの映像から叶羽の姿を見つけると、叶羽と瑞樹の容姿があまりにも似すぎていた。叶羽がショートヘアで、瑞樹がロングヘアにしている事以外はよく似ていた。


「昔から、近所のババア連中にも言われてたからな」

「これだけ似てるんだったら言われるよ」

「双子じゃないんでしたっけ」

「違ェよ。アイツと顔が似てるだけでも結構ストレスだってのによォ。まぁそんな事は置いといて……。これを見てる警察の諸君こんにちわ。俺の姉貴が世話になっている。今は亡き新島にいじま涼太りょうた巡査部長の息子で新島叶羽巡査長の弟の新島瑞樹だよろしく〜」


自分が殺した父親の名前と今も外で彼を捕まえようとしている姉の名前を口にする。これを見ている叶羽は顔を怒りに歪めていた。一体どの面下げて今は亡きなどと口にできたのか。お前が殺したんだろと声を大にして言いたいがそのせいで人質の二人が殺されてしまうかもしれないと考えると無駄なことができない。


「あのクソ野郎……」

「巡査部長抑えて…」

「分かってる。でもこれは私達を舐めてる!許せるわけがないでしょ!」

『この配信を見ていたんならわかるだろうが、今からこの塵屑共をぶっ殺しま〜す!止めれるもんなら止めてみろ〜!』

「あんのクソガキ!!」


叶羽が、激昂する様子を言うのパソコン越しに見ていた瑞樹は大声を上げて嘲笑う。敢えて相手の嫌がるであろう事を強調して喋り叶羽達が激昂したのを嘲笑う姿はまさに外道。人の嫌がることを率先してするさまは流石は犯罪者というべき姿だった。


「さて、橘仁。遺言とか有るかにゃ〜?」

「犯罪者め…」

「もっとおもしろ〜い事を吐いてくれ。って訳でさようなら〜」


黒い銃から放たれた弾丸は男の頭蓋骨を粉砕して脳髄を掻き回しながら突き進み後頭部に引っかるようにして止まった。さらに瑞樹は引き金を引く。心臓目掛けて放たれた弾丸は彼の心臓を貫いた。自分の夫の死を目の前で見せられた橘茜は無様にも逃げようと悲鳴を上げながらも学外すから立ち上がれずにそのまま転んでしまう。


「逃げんなって」


目の前に移動した瑞樹によって両手を踏み潰されて更に悲鳴を上げる。容赦のよの字もないその行いに視聴者は目を閉じる。警官は怒りを露わにする。


「椛、ほれ」


右手に持っていたベレッタを椛に向かって投げる。椛は急に投げられたそれの重さに驚くが確りと受け取った。受け取ったそれを構えて母親に銃口を向ける。


「待ちなさい!!私が死んだらあなたはどうやってこの先生きて行くの!?今までやったことは悪かったわ!!だから─────」

「アンタは私のお母さんじゃない。私は助けを求めた。学校でいじめられている事を教えたのにアンタが返した答え、覚えてる?『いじめられるアンタが悪いのよ』そうアンタは口にした。それにアンタは何回私をあの人に犯させた?私は忘れないよ。アンタ達は私にした事を」

「謝罪するわ!!何でもするから命だけは!!」

「私だって何度もやめてって言ったよ。それでもアンタは聞かなかった!!むしろ私が苦しむ様を楽しんでた!!私はアンタが生きてる限り、幸せにはなれない!」


涙を流しながら自分の怒りを口にした少女は引き金を引く。何度も何度も引き金を引く。込められた弾丸が全て放たれ切ってもなお引き金を引く。瑞樹は疲れ切っている少女からその手に握られている銃を奪う。


「おつかれさん」


そこで警官達が工場に突入する。何十人もの警官が工場の中に入るが誰も見当たらなかった。ただ、何かが腐っているような匂いが工場内に広まっていた。一箇所だけ明かりがついている場所があった。中に人影はないでも明かりがついている。叶羽が部屋に入ると彼女は口を抑えて吐き気を抑える。


「そろそろか?」

「今入ったみたいっすよ」

「入るのが遅いねぇ。まぁそこに有るのは物言わぬ塵が2つ有るだけだがな」


その部屋は辺り一面、壁も天井すらも赤黒く染まって部屋の中央に椅子に凭れるように座る小太りの男性とその男性の後ろで穴だらけの女性が倒れていた。無論橘夫婦の遺体である。その二体の死体の先にはスマホが三脚で立てられていた。


『残念でした。貴方方があのゴミ共を救おうと工場に入ったのでしょうがすでにあの豚どもは死んでます〜。何人で工場を囲っていたのか知らねぇけどそこに俺達は居ませ〜ん。いくら努力しても無駄で〜す』


そう嘲笑う瑞樹の声がスマホ越しに部屋に響く。叶羽は怒りに身を任せて三脚を蹴り飛ばす。三脚は圧し折れ、スマホが地面に転がる。


「絶対に!絶対にお前を捕まえてやるからなァ!!」

『さぁ、クソッタレのSHOWを始めようか』


悪党は善人が無様にも立ち尽くす様を嗤い、警察は悪党への怒りを燃やすのだった。

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