第十五話


「ったく、うるせぇってさっきから言ってんだろォが」


視点変わって何処かの廃工場にて男の、連続殺人事件の犯人新島瑞樹の声が響く。そして彼の声の後に軽薄そうな声がする。


「アニィ、いくらなんでも引き金が軽すぎっすよw」

「良い目覚ましだろ?」

「ヤバすぎでしょ」


なんて話をしながら彼等は二人の犠牲者を眺める。一人の女性は瑞樹によって右脚を壊され苦痛に呻き、その夫は自分もこうなるかもしれないという恐怖で体を震わせている。


「そういや気になったんスけど、態々こんなことをする意味ってなんスか?一応金を払ってくれたんで従ってますけど」

「お前も見たろ、彼奴の眼」

「……えぇ、まぁ。あぁ…。そーいうことっスか」


そう言う遊に対して瑞樹は冷たい目を向ける。そしていつも吸っている煙草に火を付ける。


「悪ィかよ」

「あの子も残念っスね。アニィみたいな犯罪者に好かれるなんて」

「それは俺ですらそう思うからなぁ。まぁ、それはさておき」


近くのパイプ椅子を自身がカメラに入るような位置に置いてから腰掛ける。足を組んで冷たい目で二人をその目で捉える瑞樹は「さて」と切り出し、二人に問いかける。


「何でお前らがここに連れてこられたか、分かるか?」

「知るわけ無いでしょ!?」

「橘椛と橘茜、橘仁の共通点は一つしか無ェだろうが。テメェ等が親子である点だけだ」

「だから連れてきたっていうのか……。私達に何をさせる気なんだ!早く返してくれ、私の大切な娘を返してくれ!」


夫がそう口にしたのを聞いた瑞樹はきょとんとした顔を浮かべた後、腹を抱えて嗤い始める。


「ッハハハハハハハ!『私の大切な娘』だぁ?どの口で言ってるんだよ!あれか?動画を撮られてるから被害者振ろうってかぁ?ハハハハハハハ!」


ゲラゲラと腹を抱えながら彼の発言に対して嗤い、涙まで浮かべている。そこまで笑っている姿に遊は溜息を吐いていたが、事前に聞かされていた椛の過去を思い出せば瑞樹があぁなるのも理解できた。


「自分の、娘にすら腰を振るような男がぁ?それを夫と娘に強要させるような女がぁ?彼奴を『大切』だと?どの面下げて、どの口で言ってんだっての。ハァ……。嘲笑った嘲笑った…。俺が言うのも何だけど、お前等って救いようのないほどの屑だよな。彼奴が餓鬼を孕んでなくて良かったわ。心が完全にぶっ壊れてなくて良かったわ。お前等が地獄に堕ちるさまが見れるからな」

「お前のような殺人鬼に屑と言われる筋合いはないわ!」


目尻の涙を拭いながら毒を吐く殺人鬼に対して糞b……。キャンキャンと高い声で叫ぶ女に先程までの様な年相応の笑みではなく、殺人鬼らしい悪魔のような笑みをその顔に貼り付ける。


「お前が言ったことが本当だって証拠がないだろ!」

「そうよ!そうよ!」

「らしいぜ〜椛。あっ、遊は椛を手伝えよ?」

「へ〜い」


遊はそんな軽い返事を瑞樹に返した後に、椛にカメラを向けてスポットライトを当てて彼女に皆の注意を集めた。この配信を見ている者達も、彼等を追う警官達ですら動きを止める。


「本当のことだよ。私はお父さん…。いや、その男の人に何度も犯されたし、その女の人にそうするように指示を出されたよ。これがその証拠」


そう言い彼女はスマホのアプリを起動する。そして彼女のスマホからは甲高い女の声が、醜い男の声が聞こえ、そうして乾いた音、醜い肉の音が聞こえてくる。そして小さな悲鳴も一緒に。


「してない!私達はそんなことをしてない!!」

「じゃぁ、これは何だ?合成によるもの?それはない。そこに居る赤屍遊はそういったモンに詳しいんだが、合成とは判別できなかったそうだ。なぁ?」

「その通りですわぁ…。何ならデータ見るか?」

「お兄さん、早くしてよ」


椛は瑞樹に何かを早くするように促したがそれに対して彼は首を振って、そのお願いを却下する。


「何で?」

「もう少し時間を掛ける。そろそろサツ共が近くにまで来てるだろうからな。どうせやるなら、彼奴等が入ってくると同時だ」

「むぅ……」

「アニィ、屑っすね」

「自覚は有るよ」


そういう彼は肩を竦める。煙草を咥えていつもの様な子供らしい笑みを浮かべていた。ただし、その左手はベレッタM8000を何時でも抜けられるようにしていた。そして椛の隣に立ち何時でも彼女をすぐに連れて行けれるようにしていた。


二人の命を救えるのかどうかは警察次第のようだ。全く以て悪魔の思考である。彼の手が自分にも向かないようにと一般市民たちは祈るばかりだった。

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