第十二話

瑞樹が帰ってくると、椛は眠っていた。瑞樹が服代わりに羽織らせていた上着を布団代わりにしていた。


「よくもまぁ呑気に寝れるもんだなァ、オイ。起きろガキンチョ」

「んんぅ……、お兄さん?」

「おう。どうした?」

「えっと、その〜……。ごめんなさい」


急に謝り始める彼女に驚いた様子を見せる瑞樹だったが彼女が次に言う言葉を聞いて彼女が謝ってきた理由を理解する。


「お兄さんの服を着てるのに、寝ちゃったりしてごめんなさい。それに私の服をコインランドリーに持っていって貰ったりもしたし……」

「お前に風邪を引かれると困るからな」


そして彼は乾燥機にかけていた服を投げ渡す。落とさないように確りとキャッチしてから青年を恨めしい目で見る。


「取り敢えず服着替えてこい。俺は見回りにでも行くから」

「見回り?何で」

「サツに見つけられたら面倒だからな。それにお前の知り合いが来てたりしても面倒だしな」


そう言い彼は塀を飛び越える。足音が離れていく音は聞こえてこない。恐らく煙草を吸いに行ったのだと推測できる。しかし彼は耳が良いので問題はないだろう、実際椛が彼に助けを求めた時は彼が居た場所からは結構離れていたのに彼は椛も声を聞いていた。


「お兄さ〜ん、着替えたよ?」

「あいよ。で、お前学校に荷物取り行かなくて良いのか?」

「行きたくない」

「じゃぁどうするんだよ?何で靴脱いでやがる。まさか此処で寝泊まりする気か?」

「ダメ?」


身長的に彼女が居たから彼を見上げる形になる。上目遣いになるのだ、そしてその状態でこの廃墟に寝泊まりすると言い出した。これには彼も呆れる他になく。デコピンをお見舞いする。


「イッタぁ!何で!」

「何でじゃねぇよ阿呆…。お前自分が何言ったのか理解してんのか?」

「うん。分かってるよ?」

「最近の餓鬼ってお前みたいなやつばっかなのか?……お前の親に行方不明届出されてたら面倒なんだがよ?」

「出さないと思う。あの人は私のことを自分の娘だなんて思ってないだろうし」

「ホォ?って事はお前結構な境遇だな。親からはネグレクト、学校では虐め。そりゃぁ俺に殺してほしいとか言うわなぁ……。此方来い餓鬼」

「一度くらい名前で呼んでくれても良いじゃん…」


なんて言いながらも椛は彼の目の前に行くと、彼は両腕を広げていた。それに対して椛は顔を赤らめながらも彼に体をくっつける。


「さて、お前が助かる方法について考えるか」

「何でこの状況で考えるの?」

「どうせお前寝るんだろ?それなら俺が近くに入ればまだなんとかなるからな。で、俺が考えるお前が助かる方法だがな」

「うん。教えてください」


彼は其処で一息ついてから喋り始める。椛からは見えないが指を二本立ててから彼は


「一つはごく普通の方法で、サツに保護を求めること。つってもこれはお前の親に連絡が行く可能性が非常に高いのでおすすめしないな」

「それにそんな事してないって、言われるかもしれないし」

「それで2つ目だがこれが一番最悪かもな」

「?」

「俺に頼るって方法。どういう事かお前はわかるんじゃねぇか?」


彼に頼るということは自身の親を彼が殺すということである。そして彼は彼女を虐めている人物すらも躊躇いなく殺すだろう。


「残念ながらこの2つしかお前が助かる道はない。さて、どうする?」

「ううん。もう一つ有るもん」

「ん?じゃぁ、言ってみろよ」

「私がお兄さんと一緒に行動するの」

「正気か?殺人鬼と一緒に行動するだと?」

「ダメかな?」


彼女は不意に上を見る。目の前には困り顔を晒す青年がいる。


「そうだな……。まずはお前の正気を疑うな」

「……だよね。やっぱり…」

「だが、面白そうだ」


そう言い青年は彼女の頭を撫でる。そして彼は笑みを浮かべて、彼女に目を合わせて最悪の言葉を口にする。


「お前の事、もらってくことにするわ」


これには少女も大喜びである。そして二人は計画を立てていく。その計画はきっと優しい人間たちからしたら唾棄すべき物だが二人にとってはそれが最善手だった。


「さて、楽しいショーといこうか?」


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