第十一話
椛が負っていた怪我の手当をしながら瑞樹は何故彼処で泣いていたのかを聞くことにした。彼女の汚れた服は近くのコインランドリーで洗濯していた。雨でびしょ濡れで、多少血がついていたのでそういった物を洗い落とすためだ。今は彼が着ていた赤と黒色のチェック柄の上着を羽織っている。
「なぁ、お前なんであんな所に居たんだ?それも傷だらけで。この前襲われかけたろうがよ。無抵抗の餓鬼なんざイイカモだぜ?」
「私が虐められてるって分かってて聞くの?」
昏い目で瑞樹をみる少女。今までの明るい笑みなどではなく未来に絶望したような、今にもその首を掻き切ってしまいそうな顔で彼を見る。
「悪かったな……。それで俺に何か出来ることは有るか?俺に可能なら……」
「殺して」
「は?」
少女の口から出て来た言葉は青年を困惑させるには十分な言葉だった。聞こえた言葉が認識しづらかったのか聞きなおしても同じ言葉が返ってくる。どうやら聞き間違いではなかったようだ
「私を殺してよ、お兄さん。お兄さんなら此位簡単でしょ?」
そう聞かれた青年は懐の銃に触れてから頷く
「そうだな…。此奴でお前の頭か心臓のどちらかを撃てばお前は死ぬだろうな」
そこで彼は実際に懐から愛銃を取り出す。そしてハンマーに手を掛ける。
「が、やらねぇ」
「何で…?どうして殺してくれないの?ねぇ!?」
彼女の目の前に座り目を合わせ、ベレッタM8000を自身の横において彼女に頭を撫でつつ
「俺に利が無ぇだろ…。それにな気に入ってる奴を殺すと思うか?」
「へ?」
「もしそうじゃなけりゃ、お前はとっくの昔に死んでるよ」
そう言い彼は彼女の頭を撫でていた手を止める。そして彼はそのまま立ち上がる
「お前は自分が気に入ったものを自分の手で壊せって言われて素直に実行するか?しねぇだろ。それと同じで俺はお前を殺さねぇよ」
ボロボロで崩れた壁を椅子代わりにしながら煙草に火をつけ一息付くと彼は彼女を横目で見ながら彼の持論を展開する
「お前のことだ、死ねば楽になると思ったんだろ?残念だが死は救済にはならねぇ。これは俺の持論だがな。人は自分が苦しいと感じるものから逃げたがる。例えばそれは課題が有るけどそれが嫌だからゲームをするとかな。それと同様に生きるのが嫌だから死のうって考える奴はよく見てきた。それにそいつを殺したことも有る。だから言えるんだが、そいつらの死に顔は……後悔に満ちていた。俺が殺した奴もその最後を見た奴も誰であっても満足した顔はしちゃいなかった。その感情は一時の気の迷いだ。だからお前は実際に死のうなんてするなよ?」
「ならどうしたら良いの!もう私は生きていたくない!明日なんか私にはいらないの!」
夕暮れのオレンジ色の日の光が崩れた屋根の間から二人を照らしていた。瑞樹の顔は半分だけしか見えなかったがいつも浮かべているような作り笑いでも時折見せる優しい笑みでもなかった。彼が浮かべていたのは虚無だった。目に光がなく一体何処を見ているのかが分からないそんな顔をしていたがすぐにいつもの様なニヤリとした笑みを貼り付ける
「じゃぁこうしようか」
「…?だから私は…」
「俺がいつかお前を殺してやるよ。いつかな、それまで自殺だったり他のやつに殺されたりするんじゃねぇぞ」
そう言い煙草の火を消し彼女に向き直ると彼は一言だけ言い残し彼女の服を取りに向かった
「本当に耐えられないってなったら俺のもとに来いよ。二度とそんな事が考えられねぇようにしてやるよ」
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