第十話

少女と青年が連絡先を交換してから数日後の事。椛は校内でクラスメイトに囲まれていた。痣だらけの少女を取り囲むようにしながら彼、彼女等は少女の所持品を床にばらまく。弁当なんかも投げ捨て、それを嘲笑う。目が虚ろで焦点があっていない少女は瞳に涙を溜めながら歯を食いしばって耐えていた。口の中で小さく自身が頼りにしている人物の名を呼ぶと少しは元気になったがそれでも立ち上がることは難しかった。


「この前さぁ、あんたと一緒に男の人が居たのを見たんだけど誰?」

「……?」

「誰かって聞いてんのよ!」


そういい声が出せない少女の腹を蹴りとばす彼女は息を切らせていた。ただ椛は彼女等が加えた暴行のせいで声が出ないので喋れないのは自分達のせいである。


「あ、そうだ。あんたのスマホを見れば良いんじゃん!」


その声が聞こえると床に散らばっている荷物を放っておいて椛は急いで逃げ出そうとする。他のメンバーたちが彼女を捕まえようとするが椛は彼らの隙間を通り抜ける。そして瑞樹と出逢った路地裏に逃げ込む。そこで自分の体を抱きしめていると、彼女の前に誰かが立っていた。警察かと思って顔を上げるがよく見えない。目を怪我した覚えはないのだがそれでも前が見えなかった。


「………?…」


彼(あるいは彼女)が何かを言っていても疲れ切った体ではうまく聞き取れなかった。雨で体がびしょ濡れであり、怪我で体がボロボロの彼女は其処で意識を手放してしまった。


「ったく。こんなところで寝ちまいやがって……。襲われても知らねぇぞ?」


少女の目の前に立っていたのは案の定瑞樹である。傘を差したまま彼女を背負うと路地裏のさらに奥にへと步を進める。びしょ濡れの彼女を背負うと彼は服の下の腕の痣を目にする。それを目にした青年は目を細める。


「こりゃ、いじめってよりかは傷害だろ……。よくもまぁこうなるまで耐えたな。親は何も言わねぇのか?普通は気づくだろうに…」

「お兄…さ…ん?」


どうやら彼女が目を覚ましたようだがまだ意識が完全に覚醒していないようだ。路地裏の奥に誰も立ち入らないであろう場所に廃墟とまでは行かないがそれでも幾らか廃れている様な家があった。その中に入っていく前に瑞樹は傘を立てかけて入っていく。


「さて、ガキンチョ。起きてるか?」

「………。……。」

「まだ上手く喋れねぇ、と言うわけか。ったく、餓鬼のいじめって何時からこんな非情な物になった?いや、元から非情か」


そう言いながら彼は少女の腕や足などの怪我に対する応急処置を施していく。背中や腹部などの部分には触れずにしていると此方に視線を向けられているので一旦手を止めて目を合わせると


「お……さん…」

「ん?どうしたよ。なんか可怪しいところでも有るのか?」


その問いには首を振って否定する椛に対して彼は何が聞きたいのかを問うと彼女はうまく喋れないなりに言いたいことを伝えてきた


「背中とかもやって、てなぁ……。お前馬鹿なの?異性に肌を見せることに躊躇いはない訳?」


それでも此方を見る少女に殺人鬼は呆れながらも処置をすることにした。呆れてはいるもののそれでも応急処置をしているあたり瑞樹は彼女に侵されてきているようだった。

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