第八話
「お兄さん何処に行くの?」
手を握り隣を歩く殺人鬼に行き先を尋ねる中学生……、傍から見ればヤバいなこれ。いや何でも無い、続きだ。交差点で信号が変わるのを待っている間に質問に答える青年
「黙ってついて来い。大丈夫怪我を負うなんてこたぁ絶対に無いから」
「教えてくれても良いじゃん」
「BARだ。酒は飲まさないけどな」
そう聞いた少女は驚いた顔をした。如何にも顔が割れそうなのにそんな場所に行ったりしても良いのだろうかとも言いたいのであろう
「大丈夫だから。まぁ実際に行ってみりゃ分かるよ」
と言うので民家の裏道を通っていく二人。薄暗い道を通っていくが中学生の椛にとっては恐怖心を煽るような道だったが隣りにいる瑞樹が手を握って案内をしてくれているだけで少しだけではあるが気が楽になっていた
「此処だ。大丈夫か?」
「もう着きました……?」
少し震える少女の頭を撫でて落ち着かせていく。目を合わせて微笑みかける、それだけで少女の顔色が多少は良くなっていく
「椛大丈夫か?もう少し待ったほうが良いか?」
「大丈夫…です」
「ん」
彼女の右手を優しく握ったまま左手で店の扉を開ける瑞樹。店内は外よりも薄暗く蜘蛛の糸が張ってあって驚く椛。カウンターでグラスを磨いているこのBARのマスターと思われる人物は白髪で如何にもな顔つきをした老人だった
「よう、マスター。元気してたか?」
「何だ小僧。此処は逢引しに来るような場所ではないぞ?」
そう言われ顔を朱に染める少女。その頭を軽く撫でると瑞樹はそれを否定する
「そういう関係じゃねぇよ。ただの知り合いさ」
「そう言う割には随分と気に入ってるようだが?」
「まぁな。それよりいつもの頼むよ」
「分かった。お嬢ちゃんは何が要るんだ?」
不意に聞かれ驚いてしまう少女を見て二人は笑みを顔に貼り付ける。ただいつも見るような愛想笑いとかではなくつい笑ってしまったというようなものだが
「なんですか」
「いや別に、何も?で、何を飲むんだ?あぁ、金は心配するな俺が出すから」
「子供に払わせるのであれば叩き出すぞ?」
「するか糞爺。俺にだってそれくらいの常識は有るわ」
そう言い二人は軽口を叩く。その光景に圧倒されていた椛は瑞樹に額を小突かれ現実に意識を戻す
「えぇっと……、林檎ジュースでお願いします」
「分かった。林檎ジュースにスクリュードライバーだな」
「頼んだ」
マスターはまず椛の注文した林檎ジュースをコップに入れて出してくれた。その後に瑞樹の注文したスクリュードライバーを作り、カウンターに出した
「お兄さん、スクリュードライバーってなんですか?」
「マスターに聞かずに俺に聞いてくるとは…、それなりに信用してるのな。はぁ……。で、スクリュードライバーが何かだっけか?」
それに頷く椛。マスターも瑞樹のことを横目で見ている。その事に気づいた瑞樹は溜息を零すと口を開く
「簡単に言えば、アルコール入りのオレンジジュースだな」
「作り方は簡単だぞ。ウォッカというお酒を氷を入れたグラスに入れた後に入れる。その後にオレンジジュースを入れるだけだ」
「ほへぇ…飲んでもいい?」
「馬鹿か?未成年がアルコール飲むなよ」
そう言い溜息を零す瑞樹を見て椛は彼の年齢を知らないと思って聞いてみることにした
「言ってなかったか?」
「ウン。私聞いてないよ」
「二十歳。じゃなきゃ煙草とか手に入れられんよ。こんな童顔じゃあな」
言われてみれば子供っぽい顔つきである。マスターが不意に椛に疑問を投げかける
「なぁお嬢ちゃん、爺から一つ聞いてもいいかい?」
「構いませんよ」
「そうか。では聞こうかの」
一息つくとマスターは片目を瞑りこちらを見る。それだけで空気が凍りついたかのような錯覚を覚える。椛は両手で自身を抱いていたが頭の上に青年に手を置かれた。それだけで少し気が楽になった
「小娘よ、何故其処の殺人鬼と一緒に行動している?お前にとって不利益でしかなかろう?」
そういうマスターは先程まで優しい笑みを浮かべていた人物と同じ人物には思えなかった
「どうした?答えられん理由でも有るのか?小僧貴様もしや」
「ヤッてねぇよ。流石の俺もそこまで堕落しちゃいねぇよ」
「であれば、何故だ?殺人鬼と一緒にいて何のメリットが有る?」
椛は一瞬だけ瑞樹の方を見ると彼は彼女と目を合わせていた。そして瑞樹は頭を軽く撫でると
「言いたいことを言えよ椛。誰も文句は言わないからな」
「そう…なんだ…。分かりました言います」
「ほう?して、此奴といる理由は?」
マスターの迫力に負けて恐怖心に飲まれそうになる少女であったが、なんとかそれをこらえて口を開く
「私を殺してほしいからです!」
「はぁ?自分を殺して欲しいが故に殺人鬼と共に居るだと?」
「はい」
その返答を聞いた二人は、大声を出して笑い始めた。近くにいた椛は耳を塞いでしまった
「クハハハハハ!まさか自分を殺して欲しいがために貴様と居るとは!」
「ハハハハハハ!此奴はそういうやつなんだよ!実に俺好みなやつだよ!」
『ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!』
二人の笑い声が止むのに数十分の時間を要した。そしてマスターは口を開き
「確かにこの娘を貴様が気に入る訳だ」
「俺にとっては最高級の答えだな」
二人の会話に椛は拗ねていた。折角マスターの威圧に耐えて発言したのにそれを笑われてしまったのだ。そうなってしまっても仕方がないだろう
「悪かったって。と言っても褒められた理由じゃねぇな」
「被殺願望なぁ…。何が有ったのかは知らんがお嬢ちゃんのような娘がその願望を持ってしまうとはなぁ…」
瑞樹は煙草を咥えて少女を小突いた。その表情は先程まで浮かべていた明るい笑顔ではなく冷たい笑みを浮かべていた
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