第七話

青白い蛍光灯が照らす取調室。机の上で足を組んで居た青年は笑みを浮かべて居た。


「これが俺とあの餓鬼の出会った時の話だ」


痣だらけの肌をした青年、瑞樹は目の前の男を見る。弁護士の男は静かに彼の話を聞いていた。だがまだ聞いていないことが有った。


「まだ聞いていないことが有ります」

「まァ待てって、な?」


瑞樹は真治を宥める。人差し指を立てて左右に振って煽りながらではあるが。


「俺も長いこと此処に居るから思い出しながら話してるんだ。少し余裕をよこせ」

「分かりました。ゆっくりで構いませんから教えて下さい。貴方が彼女を救った理由を」

「ハッ。俺が救ったんじゃない、彼奴が自分を救ったのさ」


そう言い軽く笑い声を上げる瑞樹。机の上の足を下ろし手を組んだ青年は続きを話し始める。


「さて、少し時間を取り過ぎちまったな。続きを話そうか」


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椛の目の前で瑞樹が人を殺してから一〜二週間程経った頃のことである。椛は瑞樹の居た路地裏に立ち入ることはなくなっていた。警察が出入り口に居るということも有るだろうし、あんな物を目の前で見たのだ。トラウマになっていても仕方ないだろう。


「お兄さん……。(あれがお兄さんの本性だったのかな)」

「おう、どうしたガキンチョ」

「え?」


本来なら聞こえるはずのない声が自身の後ろからしていた。彼の容姿はとても目立つ筈なのだがどうやって、いやそれ以前に人目に付きやすい場所にいるなんて!と考える椛。それを見た瑞樹は笑みを浮かべる。


「どうして……?」

「その問は”どうして此処にいるの”か”どうしてあんな事をしたの”かどっちかは分からねぇがここで話すわけにはいかねぇな」

「でも彼処は」

「サツが居るってか?誰が路地裏に行くっ言ったよ」


その言葉に首を傾げる椛。そして後ろを振り向くと其処にいたのは赤と黒のチェック柄の上着に青のジーンズを着て栗色の帽子をかぶり紫色の眼鏡を掛けた青年だった


「どうした?まさか俺が素面で表に出てると思ってたのか?」

「う…うん」

「そんな間抜けなことするわけねぇだろ」


そう言い椛の額を小突く瑞樹。そして椛の手を握り歩いていく。傍から見ればお洒落をした男と手を繋いでいる有名な中学校の制服を来た少女と事案のようにしか見えないが周りは微笑ましいものを見るかのような目線を向ける。


「(お…お兄さん!ど、何処に行くの!後恥ずかしいから手を離して!)」

「ん〜?そう言うなら振り払えばいいだろ?」


嫌なら彼の言う通り自身の手を握る彼の手を振り払えば良い。でもそうしないという事は大して嫌だと思っていないということである。


「でも!」

「恥ずかしいってか?こんなに人通りの多いところで手を離してみろ。迷子になるぜ?」

「うぅぅ。目的地に着くまでお願いしますぅ」

「ハハハ。案外可愛らしい面があるみたいだな」


そう誂う瑞樹は顔を赤らめる少女を横目で見つつ、目的地に案内していくのであった

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