第五話

少女は銃を突きつけられた事で驚き声が出なかった。だがその銃口からは目をそらさなかった。それから一体どれほどの時間が経ったのだろうか。実際には数分でも少女からしては数十分以上に感じられた死への招待は不意に終わった。


「辞めだ辞め。こんなことに無駄に弾を消費する必要は無ェな、聞いたの俺だがな…」


そう言い青年は銃を胸元のホルスターにしまい、煙草を咥えて火を付けるそれを見た少女は首を傾げる。


「私を殺さないの?」

「まだ死にたくないんだろ?死にたいと思いつつ心の何処かでは死にたくないと思っている……。そうでもなけりゃぁ逃げようとはしねぇだろうな」


殺人鬼に言われて少女は自分が足を下げて元いた場所から二歩ぐらい下がっていることに気付いた。


「なんで……なんで!私なんて生きていても意味なんかないのに!」

「知るかよ。いくらテメェが死にたいと思っていてもそれが本心じゃねぇってだけだろうがよ」


そう言い青年は少女を、椛を見る。瑞樹からしては被殺願望を抱きつつ死にたくないと矛盾した心を持った少女を憐れんでいるようにも見える。そんな彼は彼女を少し見た後に背を向ける


「お兄さん?何処かに行くんですか?」

暇潰し殺しにな」


そう言うと椛は彼を睨む。殺人鬼は呆れているが正しい反応だと思いその彼女の反応を受け入れる


「どうしたガキンチョ。テメェの目の前に居んのは殺人鬼だってのは分かってんだろ?なら俺が人を殺したところで何もおかしくねぇだろうが」

「………」

「はぁ……。ったくよぉ何が気に食わねぇんだ…?」


少女は殺人鬼を睨むだけで何の行動を起こさない。大声を上げたり、銃を奪ったりなんてそんな行動を取ったりもせずに只管に殺人鬼を見ていた。殺人鬼も少女の様子が疑問になり立ち止まって問いかけるが反応をしない。彼は椛の行動に路地裏に居座ることにする


「まぁ良いわ。お前と話すことで暇を潰すとするか」

「(わぁい!)」

「(なんで此奴は嬉しそうなんだ?まさか俺に人殺しをして欲しくない…?いや、会ってすぐの人間にそんな情を抱く訳が無ぇ……。ってこたぁ他に理由が有る訳なんだが……分からねぇな。まぁ俺がそう簡単に捕まる訳がないから良いが)」


そうして殺人鬼と女子中学生が二人で世間話をするという異常な光景が出来上がった。


「さて、時間もいい感じだな。餓鬼はさっさと帰れ」

「椛です……」

「アァ?何言ってんだお前」

「私の!名前は!椛です!餓鬼じゃありません!」

「ウルセェ……。此処で大声出すなって言ったろうがよ」


そう言い椛の額を小突く瑞樹。不満げに頬を膨らませて椛は拗ねるが此処で大声を出すデメリットをもう一度話す瑞樹によって納得してしまう


「わぁったよ。取り敢えずさっさと家に帰れ。此処に長いこと居座ったって何のメリットは無ぇからな。だからさっさと帰れ椛」

「分かりました!」

「ったく、大声出すなって言ったばかりだろうが……」


笑顔のままここから出ていく椛。それを見送って暗闇に姿を消していく瑞樹であったが彼らが居るのは路地裏である。それも光の届かない暗闇の中で月明かりも殆ど無い場所だ。そんなところで大声を出せばこうなってしまうの無理もない


「なぁお嬢ちゃん。俺達と一緒に遊ぼうぜ!」

「そうだそうだ。ギヒヒヒヒ」


ゲラゲラと下卑た笑い声を上げる男達。ついさっきも聞いていたではないか、此処に居るのは瑞樹のような人間ばかりではないと。しかし椛は全然怖いとは思わなかった。彼女が先程まで話をしていたのは殺人鬼である。初めて会った時の殺気や、先程も感じた殺気に比べればこの程度は大した恐怖にならない。どうやらそれが気に入らなかったようで近くに居た金髪の男が椛の手を掴んだときに椛は


「お兄ちゃん!助けて!」

「アァ?こんな所に助けなんか来るわけが」

「だから言っただろうが……。大声を出すなって……」


煙草を咥え黒色の服を着た如何にもな怪しい服装をした青年が其処に居た。しかしこの場において最も力の有り、椛にとってはとても頼もしい人物である。


「ったくよぉ、テメェ等もテメェ等だ……。人の寝床の近くでギャアギャアと、ウルセェんだよ」

「調子に乗ってんじゃねぇぞ!」


そう言い男は彼に襲いかかるが瑞樹はその腕を掴み膝を肘にぶつけてへし折った。


「がぁぁぁぁぁ!」

「テメェ!」

「お前らから手出してきたんだろうが……」


そう言い懐に手を入れて黒く光る銃を取り出した。銃の名前はよく見るベレッタ社という銃の制作会社が作ったベレッタM8000という銃である。又はクーガー・シリーズと呼ばれる銃の一つである。それを無造作に構える青年に男達が驚いていた。


「ニセモンだよな……」

「試してみるか?」


そう言い笑みを浮かべる瑞樹。その表情によって彼の持っているのは本物だということが分かる。そしてハンマーを起こした彼を見て慌てだす。


「ま、待て!落ち着け!此処は穏便に済ませようじゃないか…」

「どうした?俺はただハンマーを起こしただけだぜ?」

「撃つなよ…、絶t」


路地裏に大きな音が響いた。まるで雷のような音が暗闇の中に響いていった。

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