第3話 とりあえず戻る



「他の国は来てないんですか?!」


「はい。先ほど、そう連絡を受けました。」


俺が召喚されたあの豪華な部屋は、トゥニルスト神獣宮の建物の中にある、祈りの間という場所らしい。トゥニルスト神獣宮は、教会みたいなものと解釈して構わないと思う。その神獣宮から外に出て、隣にある比較的小さめの建物がスクトゥムさんが暮らしている場所だという。

現在、俺はスクトゥムさんに招かれてお邪魔していた。

そこで各国の召喚状況について聞かされているのだが、どうやら他国の神獣は応えてくれなかったようだ。

スクトゥムさん曰く、国を創った神獣はトゥニルスト神獣を含めると5柱。その内の4柱は無視をこいている状況、と決めつけても良いだろうか。


「じゃあ、俺1人で魔王の討伐を??」


「他の国の神獣宮で祈りは続いているはずです。」


「でも、待ってるわけにはいかないんですよね?」


俺のその言葉に、スクトゥムさんは難しい顔をしながら「うぅん」と唸っていた。ハッキリと言うのは気が引けるが、まぁそういうこと、といった感じだ。

さて、どうしたものか、と俺も頭を悩ませていると、スクトゥムさんは急に座っていた椅子から立ち上がり、本棚に置いてある透明のキューブを手に取った。キューブはぼんやりと光りながらスクトゥムさんの手の上で浮き上がる。あれが魔法だろうか。近くでよく見たいが、なにやら真剣そうなのでやめておくことにした。誰かと喋っているようだ。

体感で30分くらいだろうか。浮いていたキューブが本棚に戻され、スクトゥムさんは溜め息を吐きながら再び椅子に座った。


「申し訳ありません、塔矢様。お待たせしてしまいました。」


「いえ、大丈夫です。何かあったんですか?誰かと話している様子でしたが。」


「えぇ、まあ。各国同士で話し合いが行われたようで、その結果の知らせが来たのです。」


「それで、何と?」


「塔矢様にそれぞれの国に来て頂きたい、と。」


スクトゥムさんが各国の召喚状況を尋ねようと連絡をした時には、既に俺がこの世界へ召喚された事が何故か伝わっていたという。その時はどの国も「こちらも祈りを続けてみる」といった答えだったのだが、やっぱりちょっと相談しあった結果、「一度来てもらって一緒に祈ってもらった方が神獣様も応えてくださるのでは?」ということになったらしい。


「隠されるかもしれないと思いましたが、一応、どのようにして塔矢様のことを知ったのか聞いてみたのです。すると、それぞれの神獣様が教えてくださったと言うのです。」


驚いた。他の神獣は祈りを聞き届けないが、ただ情報を外部に漏らすことはするのか。


「祈りは届いていなかった?あぁ、でも、神獣様方をそんな・・・・・・でなければ・・・そうでなかったとしたら?あぁ、わしは一体どうすれば・・・。」


スクトゥムさんはブツブツと独り言をつぶやいている。

本当に神獣がそんなことをしたというのなら、何故、祈りは無視をするのか。神獣の仕業でなければ、各国から監視されていたかスパイが紛れ込んでいたか、ということになってしまうのだ。

俺はどうしたらいい?他の聖人はこの世界へ来ていないので、俺1人だ。しかも俺にはどんな力があるのか、そもそも何か神的な力を授かっているのか??今のところ本当に何も感じない。

ポケットの中に入れている宝石を取り出す。元来た世界へ帰れる、と確信している。不思議なことに、この世界に長く居れば居るほど、その確信は強くなっていった。


「スクトゥムさん、俺、他の国目指して旅立ちます。」


「えぇ?!」


スクトゥムさんはバッと顔を上げると、すっとんきょうな声をあげた。


「絶対にこの世界と元の世界を行き来できると確信しているんです。だから、なんかヤバそうなことになりそうだったら一度元の世界へ戻って態勢を立て直すことだってできると思うんです。だから、とりあえず進んでみます。今から。」


「・・・・・・・・。」


スクトゥムさんはポカーンとしていた。立ち止まっていたのに、事柄が急発進したために混乱している様子に見える。


「・・・・・・はっ!失礼、思考が止まってしまいました。や、さすが聖人様、勇者ですな・・・。しかし、その、もうすっかり日も落ちてしまいましたし、明日から、ということでいかがでしょう?一度、元の世界へお帰り頂くか、泊まっていかれるとか。泊まっていかれるのでしたら、客室がありますのでそちらにお泊まりください。」


窓の外を見る。空の色は暗い紫色だ。そういえば、神獣宮から出てきた時の空は元の世界と同じ夕暮れだった。同じ進みだとしたら、元の世界もこの空と同じ色の時間ということになる。

やばい。まだ俺は大学から出ていないし、というか、そもそもペンケースの回収すらできていない!!もう掃除の人が学生課に持って行ってしまった可能性の方が高いが、今日はテキトー癖の掃除の人が担当してて、忘れ物を放置されてたらいいなぁ、という希望を持つ事にする!!


「す、すみません!!今日は一度戻ります!また明日の朝に来ますね!おやすみなさい!!」


スクトゥムさんの言葉を待つ間もなく俺は宝石を使い、元の世界へ戻った。

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休日だけの勇者業 ツカサ @tsukasa888

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