不器用だけど優しい娘

一ノ瀬 夜月

一話

 ダメだ、もう疲れた。毎日、毎日夜遅くまで激務に追われて、家に帰ったら小二の娘を

寝かしつける。

 

 普通の家庭なら、夫がいて、収入の面でも育児の面でも、フォローし合える。

 しかし、私は娘が六歳の時に、交通事故で夫を亡くしている。だから、仕事も育児も、一人でこなさなければならない。


 「明日も早いし、寝る準備をしないと。」


 そう思い、ベットに横になると、隣には、ぐっすり眠っている娘の理恵がいた。理恵の口は半開きで、毛布もめくれている。


 そんなあどけない姿を見て、私は、【この子には、何不自由無く、健やかに育って欲しい。】との願いを込めて、眠りについた。


 翌朝、目が覚めると、妙に体がスッキリしていて、不思議に感じた。何かがいつもと違う気がして、辺りを見渡すと、時計が七時を指しをているのが目に入った。

 私がいつも起きている時間は、五時半だからどうやら寝坊してしまったらしい。


 「どうしよう、後三十分で家を出る時間なのに、間に合わない!」


 パニックで思考があやふやになりながらも、私は真っ先にやるべき事を考えていた。


「まずは理恵を起こして、それから着替えて...とにかく早く行動しないと。」


 そう思い、隣を見てみたが、何故か理恵の姿がない。いつも、私が起こすまではぐっすりだから、起きてないと思ったのだけれど...


 「理恵〜、起きているの?」


 呼びかけてみたが、返事が無いので、理恵を探す事にした。トイレ、浴室を確認したが、姿は無い。という事は、おそらくリビングに居るはずだ。


 急いでリビングに向かい、理恵が居るかを確認したが、理恵はリビングではなく、キッチンにいた。


 「ごめんね、私、寝坊したから、朝食は食パンを食べて...」


 そう言おうとした時、電子レンジから焦げ臭い臭いがした。不思議に思い、理恵に尋ねてみると、こう返答が来た。


 「理恵、初めてパンを焼いてみたんだけど、

焦げちゃったみたい。ごめんなさい。」


 申し訳なさそうに、こちらを見つめている娘の姿を見て、私は温かい気持ちで一杯になった。


 「いいのよ、たとえ焦げていても、理恵がパンを焼いてくれた事が、お母さんにとっては嬉しいから。」


 私は、今まで理恵に、料理を教えた事がほとんど無い。せいぜい、電子レンジで冷凍食品を温める方法と、やかんでお湯を沸かす方法しか教えていない。

 だから、理恵が自分から進んで、パンを焼く事に挑戦したのは、かなり以外だったのだ。


 そうこう考えている内に、理恵が何かを言いたそうにしていた。


 「理恵、目玉焼きも作ってみたんだけど、黄身が割れて、形が崩れちゃった。」


 なんと、食パンだけでは無く、目玉焼きも作ってくれていたらしい。目玉焼きは、理恵の好物の一つで、三日に一度は食卓に出るほど、我が家では定番のメニューだ。

  

 なので、大体の作り方は、知っているかもしれないが、理恵に火の扱いを教えた事はないので、どんな仕上がりなのか、とても気になった。


 「多少、形が崩れていても大丈夫よ。それよりも、火傷とかはしていない?」


 「うん、大丈夫だよ。じゃあ、パンと目玉焼きを運ぶね〜。」


 「待って、目玉焼きはフライパンからお皿に移すから、理恵は火傷しないように、ミトンを付けて、パンをレンジから出して。」


 「分かった、ここにあるミトンを付けて...

パンを取り出して、運ぶっと。」


 二人で作業を分担し、食卓には、理恵の作った朝食が並んだ。黒焦げでカリカリの食パンに、黄身が割れて、平らになった目玉焼き。見た目は良いとは言えないが、娘が一生懸命作ってくれた物というだけで、嬉しく感じる。

 

 「それじゃあ、いただきます。」


 「どうぞ、召し上がれ〜!」

 

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不器用だけど優しい娘 一ノ瀬 夜月 @itinose-yozuki

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