第4話入団式での出会い

アレリアに自分達の部屋を案内して貰って数時間後のこと。

シングルベッドで1人ずつ横になって眠っているが、綾音だけはどうしても寝付けなかった。


現在の時刻は深夜0;00ちょうどでスマホの充電も15パーセントと気がつけば残り少なくなっていた。


これが0になれば感傷に浸るものがなくなってしまう。

隣に妹がいるとはいえ、失ったものが大きいことは理解している。


初めは開き直るかのように切り替えて異世界に足を踏み入れはしゃいでたが、改めて思うと親がいないという不安感が綾音に襲いかかる。


「...霧子...起きてる?」


綾音は寝付けないので横で寝てるであろう霧子に横になりながら話しかける。

しかし反応がなく可愛らしい寝息を立てている。


「......霧子はよく寝れるよ本当に....」


霧子が寝ているのを見て冷酷だなあと思ったが、よく考えてみれば自分も人のことは言えなかった。

あの時は結構無理していたこともあって両親のことを思い出せば涙がでてくる。

出来ることなら霧子の前では元気に振舞っておきたかったので涙を見せたくなかったのだ。


「父さん、母さん.....待っててねなんて言ったけど、やっぱり待てないよ......。私達もそっちに行きたいよ。」


綾音は改めて親の偉大さを知った。

どれほど親の存在が大きかったことかと。

何度も親に怒られていなくなればいいのにと思ったこともあった。


細かいことを注意されてストレスが溜まったことだってあった。

でも本当にいなくなってしまって気づいたその存在感は、忘れられないものであることは間違いない。


__もっと家族の時間を大切にすればよかった

綾音はふとそう思い後悔した。

思えば漫画ばかり読んでて親とはあまり話してなかった。

もしかしたら『違う』のは霧子じゃなくて自分なのでは?とすら思えた。

いや、そんなわけは無い。


「思い詰めすぎたのかな、マイナスな方向にしか考えれない....」


綾音自身考えすぎたのではなかろうかとふと思った。

でも何度考えても後悔の念しかでてこない。


「お父さんとお母さんを蘇生させることが出来ればいいのだけれど...そんな非現実的なこと....異世界にいる地点でそうとも言いきれないか」

「しかし蘇生させるのは異世界でも禁忌として扱われてることがほとんど。代償がないなんてことはないはず.....。家族を蘇生できるけど妹か自分が死ぬことになるとかになったら元も子もないよね...」


横で独り言のように呟く綾音は、不安が募るあまり多弁症のように呟いていた。

日付が変わるような時間で、今日は訓練初日だと言うのに寝れてないのは不味い。

そうは思えどなかなか寝付けない。


「寝たいのに寝れない...寝なきゃいけないのに...。無理やりにでも寝よう...」


こんな複雑な心情で果たして寝れるのかと思ったが、そんなことどうでも良くなる勢いで眠ってやろうとおもった。

もしかしたら蘇生出来るかもしれないんだとポジティブに考えることにしたことで、多少は向上心が芽生えなんとかまぶたをとじて寝ることが出来た。


そうして翌日。

ラッパのファンファーレが響き渡る。

どうやらこの世界での目覚まし代わりがこの音のようだ。

鶏の代わりというやつだろうか?

2人揃って寝ている時は母親がよく起こしに来てくれてたっけ...。


「...おはよぉ...綾音〜って、まだ寝てた....」


一足先に起きた霧子が、自分よりも先に起きてるだろうと綾音に挨拶しようとしたらまだ綾音が寝ていることに気づいた。

どうしたんだろうと思いながらも体をゆさぶって起こしてあげようとする。


「綾音〜っ今日入団式だよ〜?おきてー?」


「っ....んんっ、あっおはよぅ霧子....私が寝坊するなんて珍しいな...」


霧子に起こされたのが珍しいことなのか綾音はそう眠たげな声で話す。

実際今日みたいなことになるのは珍しく、普段は綾音の方が起こす側である。

まぁ夜遅くまで起きて考え事をしていたのだからその分起きるのが遅れるのは仕方ない。


「綾音、寝れてないでしょ...? もうっ、顔にちゃんと出てるよ? ほら、早くおきてお着替えして?」


そう言って綾音に部屋に置いてくれてたのであろう昨日貰った初期装備の鎧を身につけるように促す。

恐らく昨日お世話になった兵士さんが気を使って置いてくれてたのかもしれない。

それにしても、妙に霧子が馴染んでいる。


「あっうん、分かってる....」


綾音は内心「霧子、本当に人が変わったよう....」と思っている。

霧子は本当に『違う』のだろうか?

それともやはり自分が『違う』のだろうか?

今考えても仕方ないのはわかるが、段々と曖昧になってきている。


「なんだか綾音、元気ないよ? なにか考え事?」


綾音の様子が変だということに気づいた霧子は、自分から話しかけて確認をする。


「あっいや....うん、少し考え事....」


なにか言おうとして、でも今言うのは違うと思って誤魔化した。

せめてもう少し霧子の様子を見ないと....。


「そう? あんまり考え過ぎちゃだめだよー?ほら、早く団長さんに挨拶しにいこ!」


いつの間にか着替えを終えた霧子が、まだ着替えてない綾音にそう問いかける。


「うん、わかった。」


さっきから綾音の口数が減っているが、霧子の言うように今深く考えなくてもいいかと思い、切り替えつつ今着ている服を脱いで支給された初期装備に着替える。

当然鎧なんて着たことないしまだ履きなれてないこともあって苦労する。


しかし初期装備と言っていただけあってそんなに複雑ではなく、割と単純な作りではあるためチェーン部分さえちゃんと履ければあとは鎧の部分をチェーン部分にくっつけるだけでよいので着脱には困らなさそうだし急なお花摘みなどにも対応しやすそうだ。


強いて言うならすこしパツパツで、下手に動けば股間部分が擦れる上スカートと似てふわっと動くこともあるため下着が見えてしまいそうである。

あと重い。


「......これを着て戦わないといけないと思うとすごく窮屈....。いずれ慣れるんだろうとは思うけど....命を守るためだもん仕方ないよね。」


そう綾音は独り言をもらしつつ霧子にいこっかと声をかける。


そうして2人が移動してたどり着いた先はギルドの広場、そこにはすでに何十人以上もの様々な種族の方々が待機していた。

今見える範囲だけでも主は人間なのだがドワーフやエルフ、竜人やゴブリンなどといったファンタジー世界ではよく見る異種族達がわんさかいるのが見える。


中には本を常に浮かせている者もいるようだ、きっとあの本は魔導書なのだろう。


「おぉっ....これこそファンタジーっ!って感じでテンション上がってきたぁ!」


さっきまで元気がなかった綾音が分かりやすくテンションをあげていることから自分の好きな物には忠実な様子。


「おやおや、新人さんじゃないか〜!昨日アレリア団長から聞いたよー?期待の新人なんだってね〜」


と一人の女性が話しかけてくる。


その女性はエルフ特有の美貌、エルフ特有の横に長い耳をもって綾音達の前に現れた。

体つきは綾音達と近いように見えるが、やはり胸囲では劣る...。


今霧子は神様だが彼女もそうなる前と服装などが違うだけで、容姿などは人間のままなのでエルフのような美しい体つきに2人はつい見とれてしまう。


「あっ....どうもはじめまして....。期待の新人だなんてそんな大層なものじゃないですよ....。どっちかというと私よりも妹の方だとおもいますし....」


そう言って期待の新人なんて大義名分は自分じゃなくどっちかというと妹の方だと口にする。

今は力を使えなくとも霧子は神、そもそもの立場からして自分とは桁違いなのである。


「ウチもサリュエル様の姿をしている〜とか1回言われたけど....本当に神様なのか分からないくらい力が使えないからなんとも....」


対する霧子も謙遜....という訳では無いが綾音と同じような感じでそのエルフに回答を返す。

というのもあくまで『神様』という種族なのかもしれないからだ。


それでも立場やあり方が違うため、1度力に目覚めてしまえば綾音を超えることは容易かもしれない。


「へぇ〜あのサリュエル様の.....」


一瞬エルフが殺意のようなものを飛ばした。


「おっと、ごめんなさい。ちょっと個人的な私怨があってね....」


あはは〜っと軽く笑い飛ばす。


「慈愛の神なのに私怨があるってのもなかなか不思議...。まあでも深くは聞かない」


そんな不思議な私怨を向けるエルフに対して怯えることなくこちらも平然と話を続ける。


「そういえば自己紹介が遅れたね。私はリリア、リリア=ナクリス。魔法主体のエルフだよ〜。実はあたしも最近入った新人なんだよ〜。まぁ最近って言ってもまだ1年しか経ってないけどね〜」


リリアと名乗る女性もどうやら比較的最近入団したばかりの様子。

その割には着ている装備は綾音達よりもやや強靭そうにも見える辺り、それだけ魔物を倒して素材を入手しているのだろうと考える。

魔法主体と言うだけあって魔導書を入れる為のケースが腰にかけられている。


「あっ、どうも丁寧に....私は冴島綾音と言います。こっちは妹の霧子です....」


「ウチが霧子ですっ、よろしくお願いします。」


アレリア達にしたような自己紹介をリリアにも行う綾音達。

この自己紹介を後で行うんだろうなあと思うと二度手間なようなきもするが、あまり気にしないことにした。

それに相手が名乗ってくれてるのに名乗らないのは失礼である。


そうして2人が自己紹介をしていると、アレリアが現れる。


「やあみんな、おはよう。朝早く集まってもらえて嬉しいよ。今日朝早く集まってもらったのは入団式を執り行うためなんだ。入団式を済ませてすぐ訓練を行うからね〜。」

「さて、式を執り行うにあたって主役に来てもらわないとね。綾音くん、霧子くん、舞台に出ておいで。」


アレリアがそう口にすると綾音達2人に視線を向ける。


「あっはい。」

「わかりました〜!」


2人はそれぞれ返事をして舞台に上がった。


「俺が昨日説明していたと思うが、このレディ2人が説明していた期待の新人、冴島綾音くんとその妹の霧子くんだ。霧子くんの方は染落としの影響か、サリュエル様のお力が宿っておられる。綾音くんの方もいずれ神の力が宿るだろうと思われるほどだ。」

「この2人を踏まえて今後の魔物討伐に精を出し、我らが最終目標である禁忌級魔獣アマゼウス討伐に向けて日々鍛錬を行う。」

「戦闘員ではない技巧担当のもの達も、今まで以上に忙しくなるものと考え、新人達も安心して使えるようサポートしてやってくれ。」

「さぁ、短いが式はここで終わりだ。祝いの祝杯をしたいところだが早速訓練を執り行おう。」


とアレリアが口にすると、メンバーのみんなが歓声を上げ、綾音達の名前を口にしながら盛り上がっている。


「えへへっ、ちょっと恥ずかしいけどみんなよろしくね〜!」


霧子はその様子を受けて手を振って答えている。

その様子はアイドルのようにも見える。


「......よろしくお願いします。」


一方で綾音は、アレリアの紹介の仕方が気に入らなかったのかここでも霧子に嫉妬している。

とはいえ悔しいことに説明された通りではあるので、苦情も言いづらい。


そうして短めの入団式が終わればみんなそれぞれ定位置に移動する。

さっき自己紹介をしたリリアもどこかへと向かった。


「さぁレディのお二人さん、訓練所に案内するから付いておいで。」


そうにこやかに微笑みながら背中を向けて歩き出す。

霧子は率先して歩みを進めるが、綾音は足取りが遅め。

表情もやや深刻。


「綾音?朝からなんだか変だよ?」

「....いいの、気にしないで。ほらっ!訓練しないと。」


霧子の心配を他所に、やはり誤魔化すような勢いで霧子の背中を押す。

綾音の心はだんだん持たなくなってきているが、それは単なる嫉妬によるもの。


自分の妹に嫉妬するなんて、人間としてはよくあることなのかもしれない。

姉より妹のほうが優れてることなんてあるあるだし....と綾音はプラスに考えることにした。


入団式でであったリリアが霧子に向けた殺意のことを今も気にしながら、綾音は深くまで考えることを今は放棄し訓練に集中することにした。

そうしないと命に関わるから....。

訓練とはいえ手を抜くのは行けないと思ったからだ。


__絶対妹よりも強くなってやる。そして頼れるお姉ちゃんになるんだ。

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【200PV感謝!】拝啓、妹が神様になっちゃいました! 添寝型えにぃど☆ @Nyaruko654

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