駄話6

横浜市民in横浜

 十五日、舞岡まいおか家はいつになく賑やかだ。父母が一時帰宅し、親戚と兄家族が居座り、大学時代の同好会仲間と幼馴染の双子姉妹が訪問し、農家仲間やご近所様も飼い犬を連れて、くつろぎにやって来る。

 おもてなしだけでも忙しいが、市治にとっては産まれた頃から、お盆と正月の当たり前の雰囲気だから慣れている。三穂みほ五和さわ親子や親戚主婦たちの手伝いもあって、対応はテキパキしていた。

 お昼前、市治のスマホに写真添えのメールが連続できた。

 創和はじめ架橋かけはし育美いくみ、三人ともバス停とのツーショットだ。

 バス停の名前が三つとも"横浜よこはま"とあった。

「え?」

 高知県高知市の横浜、石川県津幡町の横浜、青森県横浜町の横浜。

 市治は唖然とする。反応に困った。

 その直後、メールが多数送られる。まるで爆弾投下だ。

 すべて写真付きで、

「横浜市民in横浜」「横浜の温泉」「横浜の漁港」「横浜の実家」「横浜の菜の花」「横浜のヌコ」等々、それぞれの横浜に実在する風景から名物、その辺にあるものが送られた。

「なんですか、これ……?」市治は呆れた。

 架橋からのコールがきた。市治は取る。

「ちーちゃん、見た? すごいでしょ」

「いや、訳が分かりません」

「えー。横浜だよ、横浜。三人が行った場所の共通点だよ。ちーちゃんも何か横浜っぽいの送ってよ」

 架橋の笑い声が聞こえる。

ーーっぽいと言われましても……?

 と、市治は思うも、浮かれてる架橋は、どことなく可愛くて気持ちが和らぐ。

 市治は悩むも、騒がしい今を眺め、決めた。


 市治は一枚の写真を、三人に送った。

 数分後、三人の返事がメールでくる。

 三人とも「旧家、恐るべし」と仰天していた。

 舞岡家に今いる人全員、一枚の写真に収められていた。みんなこの田舎くさい羽沢で生まれ育った人間と犬たちの笑顔だった。

 数えたら、三十人はゆうに超えている。

 市治は何事もなかったかのように、食卓の輪に入ってみんなと食事を楽しんだ。

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