第四十六話 お茶と和菓子と、桜さんの昔話。静流?

 金平糖こんぺいとうを食べながら、あれ? って気づく。

 マツリさまは相手の心が読めるのに、あたしが生まれ変わってるのを知らなかった。

 ということは、この家の人たちの心を読んでいなかったということだろうか?


 ――あっ! そうだっ!

 心を読むのはすごく力を使うって言ってたんだっ!


 とても疲れるし、知りたくないことを知ってしまう時もあるって。

 だからあまり、心を読まないって話してた。


 初めて家にきた相手とか、なんか信用のできない相手とか、なんか気になった時に読むけど、できるだけ読みたくはないと言ってた気がする。


 相手の願いを知っても、できることともあれば、できないこともあるし、なんでもやってあげることが相手のためになるわけではないと。


 あと、頼まれてもいないのによけいな口出しをすると、嫌がられることもあるって言ってたな。


 それなのに、小蝶こちょうだったあたしがいた里の結界がある場所に向かったのは、あたしのことを本気で大切に思い、心配してくれたからなんだと思う。

 あたしは満たされた気持ちで、ニコニコとしたのだった。


♢♢♢


さくらが待ってる」

 って、マツリさまが言うので、あたしたちは部屋を出た。


 部屋の前にいた、ひまわりが「キュキュキュッ!」と元気に鳴きながら、あたしの身体を走り、頭まで移動する。

 同じく部屋の前にいた桃葉ももはちゃんが、泣きながら叫ぶ。


琴乃ことのちゃんだぁ!! いきなり消えるからびっくりしたよぉ!! ふすま叩いたり、開けようとしても開かなくて、空斗そらと君には襖叩いちゃダメってとめられるし。うたちゃんは、台所に行くって、さっさと一階に行っちゃうし。呼んでも琴乃ちゃん出てこないし、もうっ! どうしようかと思ったぁ!!」


 桃葉ちゃんが抱きついてきたので、そっと頭をなでたあと、空斗君に目を向けた。


「桜さんがお茶の用意して待ってるって」

「そう。じゃあ、行こっか」


 空斗君が微笑み、歩き出す。マツリさまも歩き出したので、あたしは桃葉ちゃんに「行くよ」と声をかけたのだった。


 四人と一匹で一階に下りたあと、みんなで台所に行くと、桜さんとうたちゃんと伊織いおりさんがいた。

 桜さんがうれしそうに笑ってから、「居間に行きましょう」と言ったので、あたしたちはうなずいたのだった。


♢♢♢


 みんなで居間に移動した。

 広い部屋だ。畳に、掘りごたつ。

 掘りごたつは知ってるけど、見たのは初めてだ。 

 広い窓のある明るい部屋に、観葉植物と、大きなテレビ。


「好きな場所に座ってね」

 と、桜さんがやさしく言ってくれたので、あたしと桃葉ちゃんと空斗君は笑顔で「はい」と返事をした。


 どうしよう? って思っていると、マツリさまがあたしの手を引き、窓側に向かったので、一緒に進む。

 そうしたら、桃葉ちゃんと空斗君がついてきた。


 テレビの近くにマツリさまが座ったので、あたしはドキドキしながら、掘りごたつに足を入れて座った。そして、淡いピンクのショルダーバッグを横に置く。

 あたしのとなりに、桃葉ちゃんが座って、彼女の横に、空斗君が座る。


 桜さんが、どの和菓子が食べたいか聞いてくれて、あたしたちは好きなのを選んだ。

 その間に、伊織さんとうたちゃんが、七人分のお茶を掘りごたつの上に置く。


 みんなが座ったあと、桜さんが「どうぞ召し上がってね」と、やさしく笑う。


 みんなで、「いただきます」と手を合わせてから、お茶を飲み、和菓子を食べた。

 おいしくて、しあわせで。


 ニコニコしてたら、伊織さんと目が合って、ドキドキしながら視線をそらす。

 今度はうたちゃんと目が合った。


 うたちゃんって、マツリさまが見えないんだよね。

 そう思いながら、マツリさまに目を向ける。


 小さな口でおいしそうに、和菓子を食べるマツリさまと、目が合った。

 可愛いなぁ。マツリさまも可愛いけど、うたちゃんも可愛い。

 なんて、ほのぼのしていたあたしに、桜さんが教えてくれた。昔のことを。


 桜さんは、料亭の和室でお見合いをした時に、藤森ふじもり家の人たちと出会ったのだそうだ。

 そして、今の旦那さんと、何度かデートをして、藤森家に初めてきた時に、鬼の若菜わかなだった時のことを思い出したらしい。


 若菜はこの場所にきていない。それなのになぜか、ここで前世を思い出したのだそうだ。

 そして知った。この家の人たちは、藤の精霊だけではなく、鬼の血も引いているということを。


 桜さんはとても悩んだけど、黙ったままでいるのはよくないと思い、藤森家の人たちに前世のことを話したのだという。

 するとマツリさまが姿を見せて、小蝶こちょうの話をしてとねだり、彼女とすぐに打ち解けたため、嫁ぐことになったのだそうだ。


 孫の伊織さんには、彼が小学校に上がる前に話したようだ。

 彼が自分から桜さんに、前世の話をしたので、その時に話をしたらしい。


 そして。


 伊織さんに聞かれたので、姉さまが、里を出たあとのあたしのことを話したようだ。


 お茶を飲み、和菓子を食べたマツリさまが、桜さんに視線を向ける。


「桜、ありがと。おいしかった」

「それはよろしゅうございました」


 桜さんがニコリと笑うと、マツリさまは小さくうなずき、あたしを見る。


「琴乃。今度はゆっくり遊びにきてね。ワタシの部屋に」

「うん。また行くね」


 あたしが笑って、うなずくと、マツリさまがふわりと笑い、「ありがとう」と言う。

 そうして彼女は、姿を消した。


 しばらくして。


 みんなが和菓子を食べ終えたなーと思っていた時だった。

 空斗君が、おだやかな表情で、伊織さんに向かって話し出した。


「伊織。僕、今、思い出したんだけどさー、琴乃ちゃんがね、伊織のブレスレットとネックレス、なんか意味があるのかなーって、気にしてたよー。今日はネックレスしてないなーとか、伊織のこと、よく見てるんだよー。伊織のこと気にしてたのは前からだけど、伊織のことが大好きなんだよ」


 あたしはおどろき、口を開く。


「えー!? あたし、そんなこと言ってないっ!!」


 心の中で思っただけで、口には出してないのにっ!

 桃葉ちゃんがいる場所で、なにを言うんだろう?


「好きだよね?」


 コテリ、首をかしげる空斗君。

 そんな彼を見て、ものすごい怒りがわいた――次の瞬間。


 ダンッ!! と、大きな音がして、あたしはビクッとしながら、桃葉ちゃんを見上げた。

 彼女が掘りごたつを叩いたあと、すごい速さで掘りごたつから出て、立ち上がったからだ。


 大きな音がした時に、掘りごたつの上にある物が音を立てたので、大丈夫かと心配になったけど、小皿や湯飲みが倒れることはなかったので、安心した。


「桃葉ちゃん。危ないわよ」

 と、やさしく叱る桜さん。そんな彼女を桃葉ちゃんはちらりと見たあと、「ごめんなさい」と謝り、うつむいた。


 そんな桃葉ちゃんをじっと見たあと、伊織さんが空斗君に、真剣な眼差しを向けて、口を開く。


「俺のことより、お前はどうなの? いつまで自分が静流しずるの生まれ変わり――」


「――うわぁぁぁぁ!! ちょっ、なに言ってんの? バカなの? ここで言う? 言っちゃう? そんなこと言ったら……」


 と、空斗君が焦った顔で言いながら、桃葉ちゃんから素早く離れて立ち上がったんだけど、ささっと移動した桃葉ちゃんが、むんずとつかまえた。ものすごくこわい顔で。


「たっ、助けてー! 琴乃ちゃん。僕を救える勇者は、君しかいない」


 空斗君が助けを求めているのだけれど。

 それよりも。


「静流? 静流って……姉さまと、弥太郎やたろうの息子だった気がするなぁ。あれ? 空斗君、前世覚えてないって言ってなかった?」


 あたしがたずねると、空斗君は可愛らしく笑いながら、ペロリと舌を出したのだった。

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