第100話 夜が明けて、それからのこと
夜が明けた。
陽の光に照らされ夜の闇が退いていくのと同時に、隠されていたケンギュラの街の状況が次第に露わになっていく。
傭兵たちのクーデターと幻魔候の襲来という前代未聞の大事件を前に、死傷者の数は予想していたよりもはるかに少なかった。
クーデターの早期鎮圧と迅速な避難により、民間人の被害がかなり少なかったことが大きな要因である。続くギルファーメトルの襲来にも、戦場を街の中心部に押し込めたことで被害は最小限に済んだ。
また、一連の事件を引き起こした元凶であるボーガロウは、自らの屋敷の応接間にて椅子に座ったまま死亡しているのが見つかった。前日、夕方の舞踏会にて多数の目撃情報が挙げられたにも関わらず、死亡推定時刻は午後三時とされ一部の騎士からは疑問の声が上がることとなった。
全てを知るのはリリオンたち一握りの人間と、彼女から真実を明かされたシャルティナだけだ。
多くの民衆や騎士達は、街を助けてくれた悪魔のような姿の
*****
「バイバーイ!」
男の子が大きな声でぶんぶんと手を振る。その後ろでは両親が何度もペコペコと頭を下げていた。
「おうっ!またなーー!!」
ファンガルは男の子に負けないくらいぶんぶんと腕を振って返した。
あの男の子は昨夜、ファンガルが身を挺して庇った子供だ。避難してすぐに両親と再開することが出来、翌朝こうして家族でお礼をしに来てくれた。家族が揃った幸せそうな様子に、彼は牙の覗く口元を緩め、ニコニコと笑っている。
「こうしてお礼を言ってもらえると、頑張った甲斐があったと感じるな」
「あァー……まあ、ゼオほどじゃねェけどな」
レヴンの言葉に頷きつつ、ファンガルはちらっと隣の人混みの様子を伺った。
その中心に居るのは他でもない、昨夜英雄と呼べるほどの活躍をしたゼオだ。
「まだ若いのにあんな堂々啖呵を切って、やるじゃないか!」
「どうだ?卒業後は、是非とも我が騎士団に来てくれ!」
そう声をかけるのは殆どが昨夜の戦いに参加した騎士達だ。
昨夜のゼオとハルラの戦いを見ていれば無理もない。
若き騎士の奮闘と劇的な逆転勝利は多くの人々の胸を打ち、彼を英雄の座に押し上げた。それを避ける為に、リリオンはヒューグに黒騎士を演じさせた。人々の話題を、ゼオから逸らすために。
だが、流されやすい民衆はまだしも、同じ戦場で戦った国軍の騎士たちはそうは行かない。元より噂となっていたゼオのことを、彼らがそう簡単に忘れるはずもなかった。シャルティナが言っていた通りである。
「いえ、いえ……そんな、ありがとうございます」
大勢の大人に囲まれながら口々に褒められ、ゼオは困った笑顔で決まりきった謙遜を繰り返す。
少し経って、準備を終えたラーボルトやリリオンたちがホテルから出て来てもゼオを取り囲む騎士の輪は消えなかった。ラーボルトがわざとらしく咳払いを繰り返して
ようやく彼らは散り散りにその場を後にした。
「ゼオ、大丈夫か?」
「にんきものすぎるのも大変だね~」
心配する声にもええ、まあとゼオは曖昧な返事しかしない。単に褒められ過ぎて疲れた、と言うわけではなさそうだ。
「それじゃ、後は各々自由に観光してくれ。
集合時刻には遅れるなよ」
彼らがこの地に来た外向きの理由である新型の
予定されていた式典も中止となり、手持ち無沙汰となった彼らは早々にこの地を後にすることとなった。
だがせっかく三大国家の首都に来たのだ。何もせず帰るのは惜しいということで、列車の時間になるまで観光することとなった。
ラーボルトはラフィス達三姉妹に手を引かれ買い物に出かけた。ゼオもレヴンやファンガルと回ろうと思ったのだが。
「ゼオ」
透き通る声が、ゼオを呼び止めた。くるりと振り向いた彼に向けて、一見いつも通りの────だが、ほんの少しだけ頬を赤くしたリリオンがゆっくりと口を開いた。
「良ければ、その……一緒に観光しませんか?」
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