第27話 【設計士】セヴァイト・キア
午前の授業が終わり、午後の自由時間になった。
ゼオとファンガル、そしてハルラはレヴンと共に学園にいくつかある巨大倉庫の一つへ向かっていた。
「ここだ」
高さ数十メートルはある倉庫の隅にある、人ひとり通れるだけの小さなドアから中へと入った。
目に付いたのはいくつもの
見覚えのある機体もあれば、初めて見る機体もあった。
さしずめ、この格納庫は巨大な神殿で、ずらっと並べられた
巨大な騎士の姿をした機神達には、そう感じさせるだけの荘厳さがあった。
先頭にいたレヴンの横を追い越し、ゼオの足はおのずとある機体へと向かう。
その機体は左腕に包帯のように布が巻かれ、白亜の装甲は所々歪み、未だ煤汚れが残っていた。
昨日の決闘で活躍した、他ならぬ彼の乗機【ヴァンドノート】である。
「……」
決闘が終わった直後、すぐに傷の治療に医務室に運ばれたゼオは自分の機体の損傷を確かめることができなかった。
機体内部でモニターで確認はできたが、外から見るのはこれが初めてだ。
その姿は予想していたよりも、かなりひどいものだった。
少なからず修理はされているだろう。だが、苛烈な決闘で負った損傷がたった一晩で直せるはずもない。その姿は重傷を負った騎士そのものだ。
だが、決して弱弱しいものではない。傷を負っていようが、その姿には闘志が満ちている───ゼオはそう感じていた。
(あの時)
(ヒューグさんに励まされて立ち上がった僕に、この機体はボロボロになりながらも応えてくれた……)
自らの乗機を見上げ、思いをはせていると、自然と口から言葉が漏れた。
「……ありがとう」
「どういたしまして」
突然、横から聞き慣れない声がした。
声をした方へと顔を向けると、そこには小柄な青年が居た。
制服の上からダボダボの上着を着た彼は、不機嫌そうに腕を組み眉間にシワを寄せている。
「で、どうだ?オレの【ヴァンドノート】は」
……オレの?
さっきの発言といい、言葉の意味が理解できない。
「えっと……いい機体だと思うけど」
「フンっ、心にもないことを」
一先ずそう答えると、彼は悪態をつき顔を背けた。
だが、満足そうに頬を緩めてもいる。
気難しいと思ったが、案外話しやすいかもしれない。
「あの、さっきの……オレの【ヴァンドノート】っていうのは、一体?」
その瞬間、彼の顔から笑みがふっと消えた。怒っているというより、疑っているような眼つきでゼオの顔を見つめている。
「忠犬君は、本当に何も知らないんだな。実はちやほやされたくて隠してるだけなんじゃないか?」
「え?えっと……」
返答に困っていると、ちょうどよくレヴンが会話に入ってきた。
「セヴァイト、その辺にしておけ」
セヴァイトと呼ばれた青年はレヴンの方を向くと意地悪そうにニヤニヤと笑いだした。
「これはこれは、決闘に負けたうえに国から放り出されたレヴン君じゃないか」
「そうだな。返す言葉もない」
明らかに挑発するようなセヴァイトの言い方にゼオやファンガルは顔をしかめた。だが、レヴンはまるで気にしていないように
そんなレヴンの態度にセヴァイトはつまらなそうに舌打ちで応えた。
二人の間ではよくあるやり取りなのかもしれない。
「ゼオ、紹介するよ」
「彼はセヴァイト・キア。
設計士と聞いて先ほどの言葉の意味が理解できた。オレの【ヴァンドノート】とは、つまり──。
「オレの機体で決闘に勝ってくれて、感謝してるよ。忠犬君」
口ではそう言っているが、セヴァイトの声音は感謝しているとは思えないものだった。
「気にしないでくださいね。こういう人なんで」
後ろからこっそりハルラが
だが、セヴァイトにはしっかり聞こえていたらしく、彼は鋭くハルラを睨みつけた。彼女はすっかり縮こまってファンガルの後ろに隠れてしまった。
話を戻そう、とレヴンが続ける。
「設計士であるセヴァイトは、我々の誰よりも
今、この場に在る騎士を模した機神たちについて、ゼオはあまりにも何も知らな過ぎた。
「知りたそう、って顔してるな」
ニヤニヤ笑うセヴァイトに図星を指されてしまった。彼はクククと笑いながら続ける。
「これでも忙しいんでな。フツーなら断ってるところだが……オレのヴァンドノートを活躍させてくれた恩人に対してなら、特別だ」
「教えてやるよ。このとんでもない怪物について、な」
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