episode8
「私と、戦いたいんですか?」
疑問と呆れを持って『僕』に声を上げてきた。
ったく。『僕』は本気で言ってるんだけどな。
「正直『僕』ってメリアの管理以外はやることがないんだよ。下っ端の神は存在があるだけでその概念管理をしてるからね」
「はぁ……。要するに私を暇つぶしに使いたいと」
『僕』は委員長に「ご名答」とだけ返す。
精神世界では外界の信号全てを遮断する。だからメリアが起きるまではやることがない。ほんと不便なものだ。『僕』はこれでも神なんだぞ?
「率直に言います。嫌です」
「なんでだよ?正直デメリットでしかないとは言い切れないと思ったんだが」
「デメリットでしかないじゃないですか。私がボロボロになった時地位がどん底に堕ちて貴女が成り上がるじゃないですか」
「まぁ……。じゃあどうしろと——」
反論しようとしたところで、委員長が机を突然数回不規則に叩く。すると、
「やっと戻っていいんだな……。ったく。お前らは話が長いんだよ」
「ごめんなさいね。ちょっと貴方にお願いがありまして」
「なんだ?この流れを見る限りほぼ絶対こいつ関連だということはわかるが」
「この子の対戦相手になってくれません?」
そう、委員長が口にすると、副委員長は……文字通り固まった。
「そ、そんなに『僕』と戦いたくないのかい?」
「そりゃそうだろ!数十人を瞬く間に倒す輩を相手に勇んで戦いに行くことなんてほとんどねぇよ!」
「じゃあギルト副委員長、委員長命令です。戦いなさい?」
「……あー、もう!わかったよ戦うよ!ただ手加減はしてくれるよな——」
「あ、戦う時のことだけど『僕』が出てる今は下手に本気を出させると災害が起きるから気をつけてね?」
「——申し訳ないですが、辞退させてください」
「ダメです♪」
「あはは……」
副委員長は乾いた笑みを浮かべていた。流石に委員長もやりすぎだろ……。
数分後。
「俺は本気出すが、お前はくれぐれも本気出すなよ?」
「勿論。あの委員長には言ったが『僕』が本気出せば■■■■■だからな」
「……なんて?」
……メリアのやろう、制限寝る前にかけやがったな。
「聞こえなかったんだったらいいよ。別にあんたが気にする必要はないしな」
「それじゃあ、私は高みの見物を——」
「あんたは『僕』の制御役だよ。余裕でこの辺り一帯を吹き飛ばしかねないからな、この体」
「わかったわ……。それじゃあ、開始!」
『僕』と副委員長の模擬決闘が行われる火蓋は落とされた。
副委員長、もといギルトは委員長ほどではないがやはり見かけない【音】の異能持ちだ。【時】ほど対処の難しさというのはないが『僕』とは滅法相性が悪い。
こちらが近距離なのに対し相手は中距離での攻撃を基本とするスタイル。
素早さで撹乱しようにも相手も音速を最初のレベルとしてどんどん加速していくから『僕』の最高瞬発能力もあんまり意味をなさない。
これほと『僕』の長所を消していく人間は見たことないな……。
「それでは……いくぞ!」
相手の目を見る。
発言通り本気で『僕』に挑んでくるようだ。全く——
——君がどうなっても、『僕』は知らないからな——
『僕』は即座にフィールドを張る。付近の電磁場を自在に操作するものだ。ギルトは模造の短刀を持ち、空振りさせる。
本来なら意味のない攻撃。しかし私はその攻撃の延長線上にいるため、後ろに跳ぶ。
直後私の前髪の先端が散る。
音を不可視の刃として具現化して放つ技、らしい。委員長情報だ。
「容赦しなくてもよさそうなんだけどなぁ」
「俺が木っ端微塵になるからやめてくれ」
「はぁ……。どこまで行っても自己中心的だな」
「お前には言われたくないな」
ン、それはどういう意味だ?これは痛い目を見せて調教しないといけないようだな。
まずはその不要なことを軽々と放ってくる口からだな?
「『瞬光羅閃』」
異能を即座に発動する。流石に反応できなかったらしく『僕』の拳が顔面にクリーンヒットした。
そこで若干怯みを見せてしまったのが運の尽きだった。
「『瞬光羅閃』[
身体能力を爆増させる能力の、常時発動。異能を持つものは皆少し(カリンの感覚で)の練習を積めば簡単に習得できるものだ。
ただ体にはとてつもない負荷がかかるが。
『僕』はギルトに逃げる暇、逃げようと考える暇さえ与えず痛みを与え続ける。流石にコテンパンにされたらかわいそうだからせいぜいボロボロの粗大ゴミ程度に抑えよう。
そう思ったのだが……。
「この、卑怯者がっ……」
プツン、と今まで結局退屈な対決を参加させられていた『僕』のナニカが今確かに断たれてしまった。
「あは、あははははは……っ」
「は、は?」
『僕』の突然の高笑いにギルトは困惑を隠せていなかった。しかし、対決であることをお思い出し『僕』に攻撃をするが……。
「その程度で『僕』に攻撃しようと思ってないよね?」
「なっ」
「さて……」
『僕』の眼からハイライトが失われる。威勢よく立っていた自分の頭は一瞬にして項垂れているようになった。
「ど、どうした……」
「……、…………。、。」
自分の心の中で、問う。
あの者をどう苦しめてやろうか、と。
「対象、1名。人格主導者を強制的に管理者■■■に譲渡。主人格の目覚めと共に終了されるものとする」
「急に何を独り言言って——」
そうギルトが対決のことなんて棚に上げ、自分をメリアのことを気にし、近づく。
自分の些細な変化に気づいたのは、委員長だった。
「ギルト副委員長、早く離れて!」
「は、どういうことd——」
そこまで口を開いた時、ギルトは、地中に埋められていた。
常闇世界の救世譚 神坂蒼逐 @Kamisaka-Aoi1201_0317
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