episode7
渋々と、私は委員長について行っていた。
そもそも苦手な人間と今二人っきりな状況に私は嫌気しかなかった。
(はぁ、これは夢かねぇ……)
そう、妄想であることを願ってしまうほどには。
「……あなた、メリアでしたか?」
「は、はい」
「先の情報は本当なのですか?私には少し信じられないのです。あなたは口にするのはまずいですが……あまり特筆して強い能力はないですし」
「別に雑魚だとか言っていただいていいですけれど。それを可能にする能力を持っているわけですし」
レフィス委員長の能力はこの世界でわずか3.27%程度しかいない【時】の異能持ちだった。人前で能力を使うことは滅多になく、そのことから付けられた二つ名は『無口な司時者』だった。
「そうですね。ですけど、もしかしたらあなたはそれを凌駕するかもしれないですから」
「そんなわけ——」
私が嘘をずらずら並べてあり得ないと思わせようと思っていたのだが——。
「まぁ、嘘を並べなくてもいいですよ。誰も知らなくても後日貴方をちょっとした用事で来てほしいと言ってきてもらうように伝えていましたし」
「え、バレてたんですか……?」
「……私はこれでも【時】を操りますから」
言われてみれば俄然納得していた。言われてみれば時を戻して過去を覗いて仕舞えば一目瞭然だろう。
「……なら、貴方には事情を話していた方がいいですかね。私の秘密を」
とりあえず講義広場を離れ、統括委員の集う会議室に入る。そこには書記の人はいなかったが副委員長は座っていた。
「……で、見つかったの?」
「はい。この子らしくて」
私が軽くお辞儀すると、副委員長は大笑いしてきた。
「まさか本当に来るとは……っ、根性どうなってるんだよ」
余程ツボだったのかいまだに笑いを抑え切れていない。癪に触るし、委員長だけに聞かせたい内容だったから私は、
「委員長、副委員長を退席させていたがけないですか」
「わかったわ。ということらしいわ」
「そんな権限お前に——」
しどろもどろに弁明しようとする副委員長を委員長は睨め付ける。とてもきれいな笑顔を浮かべつつ。
「はあ、わかったよ。入ってよくなったら呼んでくれ」
そう言って少し不服そうに部屋を離れてくれた。
「……それで、あそこまでして私だけに話したい内容ってなんです?」
「それは私、というよりは——『僕』に関してかな」
突然『僕』が現れたからか、レフィスは驚いている様子だった。全く、失礼なやつだこと。
「貴方は、メリアさんじゃない……?」
「そうだよ?『僕』は本来名前のない末端の神様。でもまぁ、今は鎖解鍵カリンかな。
それが私の名前だよ」
「鎖解鍵、カリン?」
ったく。あんまりわかってやくれないじゃないか。メリアのネーミングセンスのなさは天性だよな……。
「それで、貴方とあの状況がどう関係するの」
「あれを引き起こしたのは『僕』ってことだよ。いつも表に出ているあいつは本来そのまま本来の出力のままで異能を使えばこの世界一つ吹き飛ばすくらいの暴走を起こしうるやつだったんだ。だから『僕』がリミッターになることでなんとか対策しているって感じだな。それでも私が出れば1割本気で扱えるようになるけれどな」
「この惨状が、本気のうちの1割!?何を嘯いて——」
「それが現実だ。どうしようもない不変の事実なんだよ」
『僕』は強く吐き捨てた。『僕』も初めてメリアに憑依した時は驚いたものさ。本来末端であれ憑依した人間の異能は自由に扱えるものなのだがメリアは全く自由が効かなかった。
結局『僕』がエネルギーの調整係になることでやっと扱えるようになるという面倒臭い代物だったのだが。
「それじゃあ、貴方にお願いしたい任務があるの」
「丁重にお断りだ」
「何も言ってないじゃない!」
「『僕』はメリアを扱ってる主人じゃないんだ。せいぜい同じ体に住まう同居人みたいなものだよ。だから元々住んでいるメリアのことを勝手に決める権利は『僕』にはない」
「だったら——」
「簡単な話だ。メリアに直接聞いたらいいんだよ。まあ今は寝てるが」
ったく。緊迫しているはずのこの雰囲気をぶち壊すように爆睡しやがって。今『僕』が暴走したらどうしてくれるんだ。というか暴れたりなかったからなあ。
「あ、そうだ。あんた闘技場平気だったのか?」
「え、ええ。これでも国内有数の異能使いですし」
「だったらメリアが起きるまででいいんだがな、ちょっとしたお願いがあるんだよ」
「……なんですか?願い事によっては叶えかねますが」
「いや、そんな難しいことじゃない。しかもそちら側にも少しはメリットがある話だとは思うぞ?」
「はぁ、早く要件を言ってください」
「せっかちなやつだな。なら単刀直入に言うぜ」
メリア、もしお前が責められることになってても『僕』は何も責任は取らないからな。これはお前が寝ていて管理不足だった罰だ。
「『僕』と戦ってくれないか?」
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