流転・変動
episodes6
模擬戦らしきものの時間も終わり、また平凡に授業を過ごそうと。
そう思って授業の準備を進めていた、のだが——。
「さ、さて……授業を、始めて行きましょう……」
「「「「「はい……」」」」
「流石に授業続行できないレベルじゃないの……?」
私もといカリンの大暴走によって全員体力を消耗していた。それもそうだろう。異能のエネルギーは自然治癒速度を速くする。これは全員等しく持っている能力だ。
ただそれに伴って体力や気力が回復する訳ではなく、表面上だけ整ってきているように見せているだけだった。
(まぁ、分かりきってたといえばわかってたけど)
弱者を虐め続けたら痛い目を喰らうことがこれで身に染みてわかってくれていたのなら嬉しい限りなのだが。
「あの、メリア。ちょっといいかしら?」
「ん、どうしたの?」
「ちょっと相談があって——」
アリアの願いを聞く前にけたたましくスピーカーからサイレンが鳴り響く。
「なっ、なんだ!?」
この音は緊急警報放送の合図の音だ。滅多に使われることのない音で教師陣も使うことないと腹を括っているから驚いていることだろう。
まさに担任も目を丸くしている。
『緊急放送です。生徒の皆さんはいかなる事態であっても直ちに講義広場に集まってください。この放送は決してテストではありません。繰り返します。緊急放送です——』
みんなこの放送を聞くや否やパニックに陥った。正直火事場の馬鹿力とはこういうことを言うのかと思った。
各々教室を飛び出し廊下を駆ける。静かなはずの、閑散とした廊下はたちまち喧騒の地獄とかした。
もはや地獄絵図だった。
「とりあえず避難をしなきゃいけないことが起きたのかな……。アリア、相談はあとで。今は教室を離れるよ!」
「え、えぇっ!」
なんだかんだ状況を飲み込んでくれたアリアは私についてきてくれるようだ。私も前を走る人を追いかけて講義広場に行こうと思っているが。
この学校広すぎてどこに何の教室があるかわからないんだよ。
結局迷った私はアリアともども遅れてしまっていた。
「す、すみません!遅れました——」
「謝罪は今はいい!とりあえず入れ!」
「はっ、はい!」
厳しすぎることで有名なあの教師がネチネチと注意をしてこずに場を流す、ということはそれほど重要なことが起きたのだろうか。
とりあえず一番後ろの席が空いていたから座らせてもらうことにした。
広場はまだ近くで喋る人同士でザワザワしていた。
「え、えっと……今どういう状況なの?」
「私も分からないけど、多分学校側の設備に致命的な不備が発生したか、もしくは——」
『静粛に!』
アリアに事情を説明している私の声をかき消して一つの声が響き渡る。
壇上に人の影が現れる。わざとらしく歩く音を鳴らしているのか、それとも広場が静寂に包まれ全ての音が無に帰してしまっているような状況だからなのか。
そして現れたのは、この学校の統括委員長の、
軽く一礼すると、備え付けのマイクを手に取り、口を開く。
「全校生徒の皆さん。今日この学校に出席している人はもれなく出席していることだと思います。教師の方々もできるだけ集まっていただいてありがとうございます。それでは、早速皆さんを集めた理由をお教えしましょう。それは——」
そう捲し立てるように言葉を紡ぐ委員長。そして言葉を切ってでも出したかったもの。それは——。
「闘技場が使用不可になるほどの魔素量。本来あり得ないことです。ここに集まってもらうまでにこのような状況を生み出すことの可能な力を持つ生徒に声をかけましたが全く闘技場を使っていないと言っていました。故にここに皆さんに集まって貰ったというわけです」
「あぁ……。カリンやりやがったな」
暴れるのは仕方ないが絶対暴れるだけ暴れてその後の二次被害のこと忘れてたな。私も頭の片隅になかったから私も連帯責任だが。
「この状況に一般生徒が入れば体調不良をもれなく訴えるような状況になるでしょう」
いやそれがクラスの疲弊している原因だったのかよ!
ただただ疲れているだけかと思ったらエネルギーに充てられてるのね……。なら仕方ないっちゃ仕方ないか……。
そういや、アリア大丈夫だったな……。委員長言ってることは間違っているわけではないのか?
「ということで皆さんの中でこの状況になった原因を知っている人、もしくはその張本人は手をあげてください。情報を提供をしてくださって、かつその情報が正しかった場合こちらから『ギフト』を渡そうと思います。悪意ある嘘だった場合は、処罰が下されるので、ご理解を」
そう委員長が言い終わると同時に緋暁は瞬時に手をあげた。さすがは異能のエネルギー量だけは多い人間だこと。
「このクラスのメリアがこの状況を作りました!」
「……え、ちょっと待って何暴露してんの!?」
ここで名前出されたらこれから平凡な学園生活が送れなくなるじゃん!いい方向に転ぼうと悪い方向に転ぼうとさぁ!
「その情報信じることとしましょう。それでは報告者のクラスにいると言われる、メリアさん。私の元に来てください」
「……アリア、行ったほうがいいかな……」
「行かないと後々めんどくさいことになるだろうね。行った方が、いいと思うけれども……」
「だよね……」
本当は行きたくない気持ちを心の奥底に塞ぎ込んで壇上に歩き出す。
私の通る道の近くの人は私を見るなり驚いていた。それもそうだろう。今まで弱いなり何なり言ってきた私が今壇上に向かって歩いているんだから。
はぁ、なんでこんなことになったんだか……。
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