episode5
いつもなら誰よりも遅く異能を発動する私だが,今回ばかりはそうしていられない。
これは戦争であり,気を抜いていればすぐに命を刈り取られるデスゲーム。そんな戦いが今繰り広げられようとしていた。
「さて……容赦はしないよ。『瞬光羅閃』」
異能を即座に発動させて,全員が異能を発動させている間に数人は戦闘不能にできれば御の字なのだが。
とりあえず不恰好にも物理戦に持ち込むことにした。誰にも目に追えない速度で,私は全員を翻弄し続ける。その間に一人ずつ倒していく。タイマンに持ち込めば最強クラスの私の異能の前では集団であれど協力なんてものができていない即興の集団は徐々に戦力を削がれてゆく。
「……なんだ,大口叩いてこの程度かよ。落胆させないでよね……っ!?」
爆走していた時だった。
目の前に氷の矢が飛んでくる。常軌を逸脱した速度を逆手に取られたのだろうか。それとも数打ちゃ当たる戦法だったのか……。
「さっさと私に攻撃しなよ。そろそろ殺さないように手加減するの面倒になってきたんだけど」
「っ……舐めるな,よ……!」
そう言って数人がかりで異能を同時にぶつける準備を始める。隙がありすぎて逆に攻撃をする気が失せた私は異能がくるまでのんびり待ってやることにした。一応これは演習だし。
「何を呑気にしている!お前,これをまともに受けたら灰さえ残らな——」
「その程度の攻撃で灰になるほど私はやわじゃないんだけどなぁ……。雑魚どもがほざいて何になるんだか」
そうボソッと呟くように吐き捨てると癇に障ったようで若干自暴自棄になりつつ異能の多重発射を進めていた。
そろそろ,だろうか。さっきアリアにお願いしたし,ここで一度使うか。
「アリア!」
「なっ,何かしら?」
「……はぁ。使いたくないけどなぁ……。もし,私の人格が裏にいったらアリアの力を最大限使用してでも私を拘束して。もう半殺しくらいにしてでもいいから」
「え……。それはどういう——」
「そう言うことだからっ!……それじゃあ,私も使おうかな……。異能を使うための術式がイタいからあんまり使いたくないんだけどなぁ」
それ以外の理由もあるが,冗談めいたように告げる。どうせ,今日限りだ。
そう心に誓って私は術式を構築する。
「[雷鳴の号哭 黎明の暗闇照す光 一筋の矢は何処 射抜くは我らの宿敵 空を斬る神雷]——」
「何を言ってるかわからないが……。くらえっ!俺たちの渾身の一撃を!」
そう言って先まで構築していた異能を私に向かって投げる。確かに,これをまともにくらえば私は無傷では済まないだろう。だけれど——。
「—— 【
そう告げると同時に,私に向けられた異能の塊は雲散霧消した。
「なっ!?」
「……対象,約13名。最重要ノ相手……把握。裏人格二身体操作ノ権利ヲ委任シマス」
機械質な声。そして目覚めた人格は『僕』だった。
「な、どう言うことだよ……。なんで俺たちの攻撃が砕け散って……」
「ほんと、驚くのにも無理はないよ。君たちみたいな無能にはわからないだろうからね」
「いつの間に後ろに——がはっ」
『僕』は無慈悲だろうが、後ろから本気で蹴り飛ばす。どうせあとでメリアにお上品じゃないって怒られるだろうな。
「一体、何者なんだよ……。お前は……」
「『僕』?それともメリアのこと?それとも——」
そう言って『僕』は異能のエネルギーを一点に凝縮させて、それを破裂させる。
「『僕』含めた神々について?」
爆発したエネルギーの塊はとてつもない激しさの爆風を引き起こし、同心円状に攻撃が飛んでいく。
絶景だ。
「こ、これは……。災害の域を超えてる……っ」
「よくわかってる人いるな。メリア曰く……アリアって子かなぁ?」
「えっ!?……えぇ。そうだけれど……」
「そっか……。なら君はさっさと黙らせないと」
『僕』は【雷】のエネルギー任せに殴ろうとして——できなかった。
「ちっ……。もう少し遊ばせてくれたっていいだろ……。もっとも、こいつだったら反応できただろうに」
「メリアの願いだからね……。貴方は、メリアなのかしら?」
そう聞く女の足は小刻みに震えていた。おおよそ『僕』に恐怖を抱いてるんだろう。
「ったく。別にそんなに怖がらなくていいって。『僕』は見ての通り……といっても見た目は変わらないか。だが、鎖夢メリアじゃない」
「なら貴方は——」
「あ、そういや『僕』名前ないな。いっつも貴方としか呼ばれたことなかったからなぁ……」
今まで娯楽への飢えを満たすためだけに過ごしてきたからそれ以外の欲なんてものは考えてこなかったな。あいつ、『僕』とどうしようとも一心同体だから名前くらいつけてくれてもいいだろ。
まぁ、『僕』もメリアのことを滅多にあいつ以外で呼ぶことないしな。お互い様と言ったらお互い様なんだろうな。
「名前は、今はいいわ。それより貴方は何者なの?」
「うーん……。秘密事項だ。そして……」
どうやらあいつは『僕』を引き摺り込むらしい。仕方ないやつだ。
「これ以降上に出てくることはないだろうからなぁ……。一応言っておくか」
「……何を」
「お望みの名前だよ。『僕』の名前は——」
咄嗟に考えようとしたが、案外思いつくものでもなかった。だけれども……。
私の、もう一人の私。確かに無碍にするのはよくないよね。
「私の相棒の、名前は——
誰にも解くことのできない私の心の扉の鍵を唯一開くことができる彼女にふさわしい名前だろう。
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