シンデルナ

小西オサム

第1話 シンデルナの栄光と没落

 私、シンデルナっていうの。私は変わったところしかないお姫様、だったんだ。もうすぐ臨終だし、ちょっと人生振り返ってみようかなって思ったり、思わなかったり。


 私の名前って、花言葉が由来で、私のあまりのかわいらしさにお父さまが思わずつけたらしいの。意味は「終焉を告げる美しさ」だって。待って。おかしくない?なんで美しさに終わりを告げちゃっているの?


 これ七歳くらいのときにオヤジに問い詰めて真相にたどり着いた。あのオヤジ、「終焉を告げるほどの美しさ」っていう花言葉の花を花屋に聞こうとして、間違えて言っちゃってたみたい。なにしてくれてんの。オヤジ。一生モノの名前だよ?


 こほん。まぁお父さまもお母さまも羊に囲まれて暮らすような庶民ですから、私はお姫様になって許しましたとさ。まぁ誰も花言葉なんて気にしないし、言わなきゃばれない。ばれない。


 それで私はその美しさでとっても可愛がられて、幸せな子どもだった、はず。他のお嬢様と比べたらちょっと、だけど。


 で、私と王子様の馴れ初めの話なんだけど、王子様って間が抜けているっていうか、おドジでいらっしゃるっていうか、そこが憎めないところで、愛しちゃうんだけど、狩りの途中で道に迷ったらしいの。


 道案内する人を振り切って私について来いってどんどん山道進んだら、そりゃ迷うわ。で、道案内すら分からないような山を王子様御一行は気がつけば登っていて、で、私たち家族の家を見つけた。


 ちょうど夕暮れで、羊と犬と一緒に私が帰っているところで、浮世離れした王子様が私に話しかけてきたんだっけ。そこのお嬢さんって、そんな呼ばれ方されるの初めてで、なんか張り切って家まで案内したんだよね。


 で、お父さまが皆様今日は泊まって、明日一緒に町におりませんかって提案して、その通りになった。朝になったら、王子様が私なら必ずお妃になれるって懇願したらしくて、私は王子様御一行に連れてかれちゃった。


 それでもよかったの。だって知らないすばらしい場所に連れていってくれるって予感がしたから。


 王宮での暮らしは最初大変だったな。王子様がいろいろとしでかす私をかばってくれていたけれど、羊飼いあがりの田舎者って陰で馬鹿にされるのが悔しかった。それで頑張って勉強したの。そしたら王子様は褒めてくれた。


 あぁのろけ話が止まらなくなりそう。もうすぐ死ぬのに。好きだったんだな。王子様。


 宰相は私がお妃になることに反対する勢力の急先鋒だったらしいけれど、王子様が宰相には殺人の容疑があるって王様に進言して失脚させてくれた。王子様素敵!宰相、イケおじだったんだけどなぁ。


 やっぱりかわいいって罪ね。王子様は他にもお妃候補がいたらしいのだけれど、どうやら私にぞっこんみたいで、もう毎日私の寝室に入ってきて、私にたくさん物語を教えてくれた。


 でもね。なぜだか両親に会いたくなっちゃったときがあって、王子様に無理なお願いって分かっていたけれど、一度でいいからお父さまとお母さまに会いたいって言ってみたの。


 そして知ったわ。宰相が私の家族を皆殺しにする命令を出して、私の暗殺計画も企てていたってことを。家族は全員殺されていた。帰る故郷はなくなってしまった。


 どうやら宰相は私の一族が権力を手にすることを危険視していたらしくって。私は泣き続ける以外に何もしたくなかった。そんな私に王子様は結婚式を挙げようと提案してきた。


 でもそんな気分になれるはずないじゃない。だから断ったけれど、そしたら王子様は荷物をまとめてさぁ旅行に出かけようって言った。嫌がりながら私は王子様とあちこち遠出した。


 王子様って見ていて飽きない人で、行く先々で失敗するし、私も似た者同士なのか詰めが甘くって、そうしてだんだん笑えるようになってきて、夕日を前に、私は王子様に結婚式を挙げたいって言った。


 それで結婚式を開いたのだけれど、式の前も途中でも、王子様が王家秘蔵のガラスの靴を履くことで正式な妃になれるって言っていたのが気がかりだった。そして式の最後、私はガラスの靴を履くことになった。


 私は履けなかった。どんなに強引に足を入れようとしても無理だった。失望が会場に広がっていくのが分かった。王子様の顔をためらいがちに見ると、王子様は放心しているみたいだった。


 数日後、私は少しのお金を渡されて王宮を追放された。王子様は式の失敗以来私を絶対に見ようとしなかった。私の贅沢な生活は去って、王様に無理を言ってついて来た従者のフツメンと二人きりの旅が始まった。


 そして郊外のあばら家に住み始めた私は、その生活に体が馴染めなかったのか、失意のあまりか分からないけれど病気になって、今、臨終間近。


 王子様かっこよかったなぁ。あんなイケメンとこれから出会えるかなぁ。いや、やっぱりひどくない?だってガラスの靴履けなかったくらいで愛を失くすような男よ。やっぱ憎い。


 今更になって恨みがはんぱない。あんな男好きになるんじゃなかった。もしかして私ってひどい人生だった?生まれ変われるなら、今以上に美しい女の子になって、近寄るイケメンどもをなぎ倒してやりたい。


 従者が心配そうに寝込む私を見ている気がするけれど、もう私は声を出す間もなく死んでいく。絶世の美女としてイケメン野郎に終焉を告げてやりたいと憤りながら、私は死んでしまった。

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シンデルナ 小西オサム @osamu55

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