第11話 砂かけババアを殴ろう
陰陽師を探し始めて1週間が経った。
朧曰く、最近パタりと姿を現さなくなり、情報が集まりにくいとのこと。
居なくなったのか潜伏したのか分からないがこのまま放置していいものか否か。
「おごっ…!ごっ…!」
今の所実際に会ったことは無いし、氷影さんに被害が出ていない。
本音を言えば朧から早々に手を引きたいのだ。特にアイツは胡散臭いところがある。
今回の件が解決したと同時に裏切られたり、そもそも褒美なんて無いって言われる可能性だってある。
所詮は口約束だ。人間であればカメラや書類なんかで証拠を作っておくべきなんだが妖怪にそれが通じるとも思えない。
肝心の朧からも何も言われていないし、困ったものだ。
「がっ…!こはっ…!」
さて、話は変わるが砂かけババアは知っているだろうか。簡単に言えば砂をかけてくる妖怪である。砂かけババアにも種類が居て、直接砂を掛けてくるファイティングタイプと音を立てて脅かすクソガキタイプ。いやまぁ両方クソガキタイプと言えばそうなのだが。どっちがファイティングなクソガキかと言えば直接砂を投擲にしてくるクソガキである。
アイツら昔は砂を振り掛けるだけで良かったのに、何を思ったのか現代の空気に当てられて砂を投げてくるようになったのだ。
砂かけババアが砂投げババアにジョブチェンジしているのである。
しかもいかに速く正確に不快感をお届け出来るかを種族砂かけばばあ同士で研究しているので、サブマリン投法だったりサイドスローだったりで砂をぶつけてくる。
そんな職業砂投げババアのファイティングクソガキが直接砂をぶつけてくるようになればどうなるか。
めちゃくちゃ痛いのである。
「なぁ、おい、お前らなんで進化してるんだ。なんで砂投げ始めちゃってんだおい。いてぇんだよ分かるか。人間にもたまにやるやついるけどあれ痛いんだよ。というかお前が砂投げたおかげで俺の制服砂まみれなんだよ。この間河童にも襲われて俺の制服泥まみれになってんだよ。泥の次は砂かよ。砂も滴るいい男ってか?うるせぇ誰が砂男だぶっ飛ばすぞ」
「うぐぅ…!うぐぐぁぅ…!(言ってない!言ってない!!)」
何が言いたいかと言うと、現在砂かけババアをとっ捕まえている。
顎の方を下から掴み上げて、塀に押し付けている。
俺が帰宅中の事だ。
頭上からサラサラと音が聞こえてきて上を見上げても誰も居らず、聞き間違いかと思ったが突如横から殴られたような衝撃が横っ腹に伝わってくる。
そこそこの質量がぶつかってきたので、思わずよろけると今度は顔面を撃ち抜かんがごとく何か塊が飛来してきた。
ギリギリのところでかわすと背後の塀にそれはぶつかって砕け散っていく。
一体なんだと見てみれば正体は砂。
そしてこの威力の砂が飛んでくるとなると、人間にここまで砂に投げ慣れた奴がいるとは思えないので暫定妖怪。
というか人間だろうと妖怪だろうと砂を投げられて腹の立たない奴がいるだろうか。
俺はそのまま飛んできた方向にある公園の薮に歩いていき、思いっきり薮を蹴飛ばしてやると、転がり出てくる小柄な老婆。
そこで普通なら罪悪感を抱くだろうが、そこは妖怪を殴り慣れた俺なので躊躇いもなく顔を掴み上げ、近くの塀に押し付けて今に至る訳だ。
勘違いしないで欲しいが老人に対して俺が何かしら私怨を抱いてるわけでもなく、単純に妖怪だからこういう対応を取っているだけだ。
人間の老人が困っているなら助けるし、難癖つけてくる老人はスルーする。妖怪の老人は別である。
無害ならもちろん何もしないが、こうして実害が出ている以上ボコらざるを得ない。
「ふんっ!」
「ぶっ…!」
押し付けていても何喋ってんのか分からないので乱雑に地面に投げ捨てる。
勢いよく顔面から地面に突っ込んでいくファイティングババア。
さて、じゃあいつものように脅して追っ払うか。
いや待てよ?コイツなんか知ってねぇかな陰陽師の事。
知らなかったら知らなかったで追い返せばいいし、知ってら知ってたで儲けものだ。
突っかかってきたのはそっちな訳だからこれくらい聞くくらいは許されるだろう。
俺はファイティングの結果スライディングしたババアの胸倉を掴み上げる。
「おい」
「は、はい」
「最近出歩いてる陰陽師について知らないか?」
「う、噂くらいなら」
「へぇ?どんな噂だ?」
「鎌鼬の仁兵衛がやられた噂と妖怪が見境なくやられてる噂です!」
完全に脅えきった様子で口にした内容は俺も知っている内容の噂であった。
うーんハズレか。
俺は再びなんたらばばあの投げ捨てると、
「おい、次俺に関わったらタダじゃおかねぇからな。分かったらさっさと俺の前から失せろ」
ひぃぃ!と悲鳴を上げて走り去るランニングババア。
ファイティングだったりスライディングだったり属性過多ババアだったなと思う。
いやこの属性全部俺が付けたのか。
さらば属性過多ババア、二度と会わないことを祈る。
何故こうも妖怪の老人というのは面倒くさいのだろう。
違うか、俺の会う老人がイマイチなだけか。
それはそれで嫌なんだよなぁ。
とは言え、結局陰陽師に関しては分からずじまいか。
でもこの方法なら俺が積極的に情報集めなくても情報源が寄ってくるからそこから得られるかもしれない。
氷影さんにだけ被害が及ばないように気をつけながら気長にやっていこう。
さあ、今日もとっとと帰ろう。
そう思ってその場を後にしようとすると、ふと何か不思議な感覚がする。
朧が消えたりする時の感覚じゃない。誰かに見られているような…
後ろを振り返ってみても誰も居ない。でも誰かに見られている、そんな感覚が拭えない。
「…考えすぎか?」
妖怪という異常に長年絡まれてきたからか、そう言うことに敏感になりすぎてしまってるかもしれない。考えすぎはストレスの元になる。将来ストレスハゲにならないためにも、考えすぎないように気をつけなければ。
────────
某所、高台にて。
「あの距離で気付いたんですか…?」
手元には監視用の形代がある。
それにふっと息を吹きかけると、端の方から燃えて塵となった。
「本当に人間なんですか、貴方は」
その呟きは、風に乗って消えていった。
学校帰り、妖怪を殴る。 二ツ井 @yasura089
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