第10話 陰陽師について聞こう

で、肝心の放課後である。

部活に入っているわけでも委員会や生徒会に入ってる訳でもない生粋の帰宅部な俺は待ち合わせ場所である、以前カッパを殴ったあの公園に来ていた。

木陰のあるベンチに腰掛け、朧を待つと、スっと気配が隣にやってきた。


「おう、遅かったじゃねぇか」


隣を見れば朧が居た。

相変わらずどこで持ってきたのか分からない湯のみと茶を啜りながらベンチに座っている。


「学校なんだから仕方ねぇだろ。さっさと本題に入れ」

「つれねぇなぁ、もうちっとジジイの話に耳を傾けてくれてもいいんだぜぇ?」

「うるせぇ」

「生意気な奴だ」


軽口を叩きながら朧は和服の袖に湯呑みを突っ込むと、今度はそこから煙管きせるが出てくる。

なんだその袖。某国民的アニメの青タヌキみてぇ。

それを軽くベンチにぶつけると火がついて細く煙が立ち上って来た。

妖怪専用の道具なんだろうな、あれ。


「じゃ、せっかちなお前さんのために本題に入るとするかね。結論から言うと、まずそいつの名前はわからん」

「おい」


俺の名前は分かるのにそいつの名前がわからないのはどういうことだ。

そう問い詰めようとすると朧はキッとこちらを睨んで。


「馬鹿野郎が。そもそもこいつがこっちに来たのはつい最近。小僧はずっとここに住んでんだろうが。情報に差があるのは当たり前だ」

「…すまん」


確かにそれはそうだ。今のは俺の考えが短絡的すぎだった。

謝ると朧はニヤリと笑って煙管を口から離し、煙を吐く。


「いいさ、謝れる奴は嫌いじゃねぇ。で、だ。別に何も分からねぇわけでもねぇ。幾つか分かってることもある」


一度朧は煙管を口に当て煙を吸い込み、また細く煙を吐き出した。

てか煙草くせぇ。

匂いとか苦手なんだよな煙草。つーか公園で吸ってんじゃねぇ。

そんなツッコミが心中にあったが話を中断させるだけなのでとりあえず今は飲み込んでおく。


「まず1つ目、くだんの陰陽師は基本的に夜にしか動かねぇ。日中ドンパチやって目立つのを嫌ったのか、はたまた別の理由か。そこは分からねぇが絶対に夜にしか動かねぇ」


となると、実際に会う場合は夜に行動することになるか。

あまり夜中にゴソゴソ動いてると親の目が心配になるな…朧何とかしてくれないだろうか。


「2つ目、そいつは女だ。珍しいってわけじゃねぇが、まあ判断材料にはなるだろう。夜出歩く男は少なくとも俺らの目標じゃねぇ」


随分とざっくりしているが、2分の1くらいの判断は着くようになった。

しかし、


「だとしてもざっくりしすぎだろ。もうちょい無いのか?こう…見た目がどうとか」


流石に夜出歩く女が陰陽師だと言われて当てはまる人全員尾行する訳にもいかないし、そもそもそんなことをしてしまうと俺がお縄につく羽目になる。

朧に調べてもらえれば1番いいのだが、万が一ってこともある。

得られる情報が多いに越したことはない。

朧は手を顎に当て、何か思い出すような仕草をしながら唸り始める。


「えーっと、なんだったか…あぁ、そうそう。頭は夜で暗くて見えなかったらしいが白い服を着ていたとか何とか。洋服ってよりかは和服が」


白い、和服、陰陽師と言われれば大体予想がつくのがあのアニメなんかでよく着てるアレだろう。

こてこての陰陽師なんだなソイツ。

腕を組んで先程聞いた情報を纏める。


「夜に出てくる陰陽服を来た女か…ギリギリ探せそうで探せなさそうで微妙なとこだな」

「早くとっちめるべきなのはそうだが、功を焦るのも良くねぇ。地道に探していくしかねぇだろうさ」


朧はベンチから立ち上がり、そのまま真っ直ぐ歩いていく。


「あ、おい」

「俺はもう少し情報を集めてみる。なぁに小僧の出番は見つけてからだ。お前さんはその時まで温存しといてくれや」


呼び止めようとしたが、そういう事であれば止める気も起きない。

そのまま朧は景色に溶け込むようにぼんやりと消えていった。

そうなると俺もここにいる理由は無い。さっさとうちに帰ることにしよう。

公園から出て、いつもの道を歩いていこうとすると、


「あれ?晴真じゃん。帰ったんじゃなかったんだ」


後ろから明堂が俺に声を掛けてきた。

スマホの時計を見れば16時、生徒会が終わるには少し早い時間のように思える。


「そう言うお前も今日は早いんだな」

「うん、というか最近は急ぎの仕事がないからね。予定とか再度確認したら大概は終わりだよ」


明堂はちょっと駆け足で俺の隣まで来ると、俺達はそのまま自然と一緒に帰るように歩き出す。


「で、なんで公園に居たの?」

「あん?あぁ、ちょっとした野暮用だよ。気にすんな」

「え〜?気になるなぁ〜彼女とか?」

「抜かせ。俺にそんなの出来るわけねぇだろ」


そんな風に互いに軽口を叩き合うこの時間は本当に楽しい。

妖怪と関わり合いのない時間があるのは俺にとってかなり貴重なのだ。

四方八方首を向ければあちらこちらに見える異形。そういったモノに目を向けなくていいから明堂との会話は日々の癒しとなっている。

元々、俺はこの通り柄が悪いので友人が多くない。だからこそ明堂が俺と友人で居てくれるのはありがたかった。

妖怪と関わらなったら、もっと積極的に色んな人と会話するのも良いかもしれない。

その前に、この柄の悪さを何とかするべきなのかもしれないが。


「あ」


ふと、明堂が立ち止まる。


「どうした?」

「え?あ、いや、うーん…ごめん、なんでもないや」


明らかに様子がおかしいし、ここでなんでもないと言われてもそれはそれで気になるのだが。


「なんでもないこたぁねぇだろ。忘れ物か?」

「ううん。えっと、なんて言えばいいんだろう。僕、晴真に何か話したいことがあったんだけど、それについてすっぽり忘れちゃったって言うか、覚えてないって言うか…」

「なんじゃそりゃ」


でもそういう事はよくある事だ。なにか話そうとしてさあ話すぞ!ってタイミングでふっとその話題を忘れてしまう。

会話をする機会が少ない俺ですらある。

誰がコミュ障だぶっ飛ばすぞ。


「ま、忘れたってことはそんな重要なもんじゃねぇんだろ。帰ろうぜ」

「うーーーん…それもそうか。そうだね」


明堂もそれについて気にした様子もなく、俺達はその後もあーでもないこーでもないとうだうだ話しながら帰った。


「……」


背後に忍ぶ影に気づくことも無く。

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