第9話 転校生と会おう

「んあ?」


いつものように校門をくぐろうとすると、見知った奴の背中が見えた。

その背中からは長くて黒いスカートの端がチラチラと風に揺られ見える。誰かと話しているようだ。

うちの学校の物じゃないのは一目で分かった。学外のヤツが何故アイツに?と、少し気になった俺は野次馬根性で話しかけてみることにした。

近づいていくと足音で気づいたそいつがこちらを振り向き手を上げる。


「おはよう晴真」

「おう、明堂」


お互いに挨拶を済ませ、明堂の隣に歩を進めると、スカートの端しか見えてなかった人物の全貌が明らかになる。

パッと見全体が黒く、他所の制服なのだろう、服の左側には校章が付いている。

髪ですら黒く、所謂おカッパみたいな髪型をしていた。

身長も相まって一見すると中学生に見える。

ただ顔立ちは整っていて、一部の男子からはウケの良さそうな見た目をしていた。

あれだ、学級委員長やってそう。


「…なにか?」

「あ、いや、すまん…」


物珍しさにジロジロと他人の容姿を観察してしまった。

謝罪しながら罪悪感と羞恥で視線を逸らす。

そんな俺の気を知ってか知らずか明堂は、


「前に話したでしょ?転校生の話。この人がその転校生なんだって!」


と、話を変えてくれた。

ああ、そういえばそんな話もあったなと思い出すと同時に、え?こいつ同い年なん???と思わず思ってしまった。

流石に先程のこともあり、失礼極まりないので何とか顔には出さないように務めたが、


「良いですよ。慣れてますので」

「……すまん」


どうやら俺はポーカーフェイスが下手くそらしい。

改善出来るかは分からんが出来るだけ改善はしたい所存。

あはは、と苦笑いするあたり明堂も俺が何を考えてたのか分かってしまってるっぽい。

俺はひとつ咳払いをして


「で、転校生がうちに何か用事…ってまぁそりゃあるか。手続きとか」


と、明堂が振ってくれた話題を引き継いだ。

するとおカッパは首を横に振り、


「いえ、手続きに関してはほとんど終わってます。と言っても、ついさっき終わったという所ですが」

「それで帰ろうとしてた所で僕と会って、ホームルームまで時間あるし、折角だから校内を見て回らないかって誘って今回ってたところなんだ。あ、ちゃんと先生から許可は貰ってるよ」


なるほどな、流石陽キャウルトラMAXだ。

コイツのコミュ力お化けっぷりは友人として素直に尊敬する。

かといってそうなりたいかと言われれば、性にあわないのだが。

まあそれならここで引き留めてしまうのも時間の無駄だろう。

俺は早々にこの場から立ち去ることにした。


「それなら邪魔したな。俺は先に教室行ってるよ」

「邪魔って…そういう所だよ晴真。もうちょっと人と関わりを持とうとしてもいいんじゃない?」

「んあー…ま、善処する」

「それやらない人の台詞だよ…」


うるせぇ、元々あんま友人居ねぇんだよ。

俺は玄関に向かって歩いて行こうとすると、


「待って下さい」


と、声を掛けられる。

声の主は例の転校生。

真剣な表情でこちらを見据えていた。

な、なんだ?俺なんかしたっけ?

したわ。ジロジロ見てた上に失礼なこと考えてたわ。

お叱りを受けるつもりでそろーっとそちらに顔を向けた。


「自己紹介をしてませんでした。私は芦屋あしやみちると言います。これからこの学校で暮らしていくクラスメイトとしてよろしくお願いします」


と、綺麗な立ち振る舞いでお辞儀される。

どっかのいいとこのお嬢様なのだろうか。やけに所作が洗練されている。

名乗られたからには俺も名乗らなければ無作法だろう。

そこまで綺麗な自己紹介は出来ないが、まぁ庶民なりに精一杯答えることにしよう。


「俺は晴真。阿部晴真って言う。頼りになるかどうかで言えばそっちの明堂の方が頼りになるから俺よりもそっちを頼ることをオススメする。まぁ、よろしく」


改めて自己紹介するとどこか照れくさく、視線があっちこっち行って凄くかっこ悪い。

その様子を見た明堂が笑いを堪えるかのようにそっぽを向いていたので後でしばくことにする。


「アベハルマ…阿部晴真…そういう事ですか…」


転校生、芦屋は何やらブツブツと小さな声で呟くと、再度お辞儀をして明堂と一緒に歩いて行った。

なんだったんだろうか?俺の名前に何かあったのだろうか。

そんなに変わった名前では無いと思うのだが。

考えても思い当たる節が全く無いので、それに関して一度考えるのを辞めた。

一人玄関から教室に向かおうとすると、


「おい、小僧」


と、どこからともなくしわがれた声が聞こえてきた。

昨日聞いたばかりのぬらりひょん、朧の声である。

周囲を見渡してみても朧の姿は見当たらないが、確かに声が聞こえた。


「探さんでいい。お前さんが自分の生活を大切にしとるのは昨日嫌ってほど思い知ったからな。俺なりの気遣いって奴だ」

「…だからってなんも見えないところから声を掛けられるこっちの気にもなれ」

「流石にそこは我慢せい」


まぁ目の前に出てこられるよりはいいか。

諦めて廊下を歩きながら小さい声で朧に声をかける。


「で、何の用だ。待ち合わせの時間にはまだ早いぞ」

「待ち合わせの時間は決めとったが場所は決めて無かったからなぁ」

「ああ、そういう…なら俺の通学路の近くに公園がある。そこで会おう」

「おうよ。じゃ、また後でな」


その言葉の後、俺の周囲から明らかに何かが居なくなった気配がした。

普通気配なんて分かるものでもないが、元々あったものがスっと消えていった、霧散して行ったような感覚があったのだ。

恐らくこれがぬらりひょんとしての力なんだろう。

というかどこの公園だって聞いてこなかったってことはアイツ俺の後付いてきてたな。

まぁちょっかいを出して来た訳でもないから気にしないが。

教室でしばらくボーッとしていると明堂が帰ってくる。

あの後、幾つか施設を回って芦屋は帰って行ったようだ。

その際何人かの生徒に見られて、危うく質問攻めになりそうになったようだが、無事で何よりである。


「お前は元から目立つんだから気をつけろよ」

「いやーはは、すみませんでした」


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