第5話

 会議室には真ん中にテーブルがつけてあって、まわりをイスが囲んでいる。電話台は壁際にあり、電源をちかくの壁から取れて便利だから、電話に手が届く席に陣取ってノートパソコンを広げてある。ブラインドで部屋の明るさを調節して快適だ。

 一本電話をかけて、署長にいままでのところを報告した。研究所側の依頼に応える方針について了承を得られた。署長からは、捜査がスムーズに進むように配慮しろとおおせつかった。捜査員にまかせておけばよい。

 仕事で美結ちゃんに会うことになるとは思わなかった。美結ちゃんが逮捕されるようなことがなければいいけれど。美結ちゃんの職場というわけではないから大丈夫か。

 お目付け役くんが捜査主任をつれて会議室にもどってきた。

「研究所に協力してもらいたいことを先に洗いだしておきます。そのあと佐藤さんにきてもらって調整しましょう」

 捜査主任は捜査対象をあげ、わたしはパソコンに入力してゆく。

 ・関係者の取り調べは進行中。引き続き協力願う。

 ・指紋の提出をしてもらいたい。

 ・自動ドア前の監視カメラをチェックしたい。

 ・カード認証の記録をチェックしたい。

 ・掌紋認証の記録をチェックしたい。

「ショーモン認証って?シモンじゃなくて?」

「掌紋というのは手のひらの模様です。実験室のドアは掌紋認証で、登録してあるのは被害者だけでした。いまは助手の女性ひとりだけです」

 この捜査主任はクールな物腰で、なんだろ、優秀なビジネスマンみたいな印象だ。優秀なビジネスマンに会ったことはないけれど。

「記録があるって言うのは、業者の人から聞いたんですね」

 捜査主任がうなづく。やはりビジネスマンとは少し違う。目つきが鋭くなる一瞬がある。

「そうだ、玄関にいつまでも車を停めておくと迷惑だから、駐車場へ移動するように言っておいてください」

「移動済みです」

「あ、本当。オッケーです」

 掌紋認証の業者がくるから移動してあったのかもしれない。

 警察側の要請事項の洗い出しは済んだ。

 内線でおじさんを呼んで会議室にきてもらい、こちらの要求を伝えた。

「自動ドアのカードは紛失しないよう管理してください。もし、紛失、盗難などあったらすぐに連絡を。こちらでカードの番号を控えたりしないので、紛失した場合に番号がわかるように対応をお願いします」

 問題ないと捜査主任が答える。

「監視カメラ映像も、ドアの記録も提供するようにいっておきます」

「頭部から被害者の身元は確認できたんですよね」

「さっき、刑事さんに話を聞かれてね。研究員の護堂くんだと伝えたよ」

「体の確認はどうやって?」

「指紋で確認します」

「自宅へはもう?」

「いえ、家族の話を聞いているところで、そのあとです」

 とりあえず、第一回の調整会議をクールに終え解散した。

 やれやれ、ひと仕事終わったと思ってくつろいでいるところに、事務の女の人がお茶セットをもってきてくれた。モードを切り替える。

「ありがとうございます。あとは自分でやるんで大丈夫です。事件が起きて大変じゃないですか?仕事進んでますか?」

「わたしの仕事は影響がないようです」

「護堂さんとはお知り合いでした?」

「社員証の写真撮影のときにお会いしているはずです。しかし、知り合いというほどではありません。グループごとに事務担当者がいますので、仕事上も関わりがないのです」

 事務の人は部屋をでてゆき、わたしがお茶をいれて、お目付け役くんとお茶をすする。今朝コーヒーをほとんど飲めなかったから、コーヒーが飲みたい。わたしのいれたお茶では物足りない。

「さっきの人、アンドロイドだったっすか?」

「へ?そんなことない普通の人だったけど。なんで?」

「だって、アンドロイドの研究をしてるんすよね、ここ。そしたら事務の仕事くらいアンドロイドにやらせそうじゃないっすか」

「うーん、旧式のアンドロイドはね、こういう場面ではこう反応するみたいにプログラムされてるんだ。見知らぬ他人がやってきて、決まった用件に限らなくて、それに対応してみたいなことはできないんだよ。そんなことに対応させようとするとプログラムが複雑になり過ぎるし、プログラムに書ききれない。学習機能はあるんだけどね、新しい仕事を覚えられるってわけじゃない。アンドロイドは、家の中で家族の世話をするっていうのがせいぜいなんだよ。昔はそんなの無視で買い物とかさせようとしたみたいで、事件がいろいろ起こったんだ。それで、あまり役に立たない、むしろ問題のタネだと思われるようになって、アンドロイドは普及してないってわけ」

「そうなんすね。アンドロイドっぽいって思ったんすけど」

「それはあの人の個性の問題かな」

「副署長、アンドロイド詳しっすね」

「お母さんが、この研究所で働いてたんだ。それで、すこしね。お母さんはここの副所長とも昔なじみだし、美結ちゃんのお母さんとは学生時代からお友達なんだ。おかげで、美結ちゃんとわたしは生まれたときからの親友ってわけ」

「すごいもんすね。マンガかアニメみたいっす」

 ノックがあってはいってきたのは、噂をすれば美結ちゃんだ。

「愛音ちゃん、暇?」

「暇って言ったら怒られそうだけど、いまはほっと一休みかな」

「わたしは生首を渡されるまでは暇なんだ」

 普通の会話に生首をいれないでほしい。

「コーヒー飲まない?」

「美結ちゃん、その言葉を待ってたんだよ」

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