第56話 悪い夢の終わり(最終話)

「けど君たちだったんだね。やっとこの怨嗟の雑音から解放されたよ」


「それはよかったわね」


時間経過による思い出の焦る苦しみは、痛いほど理解できてしまった。


「私としてはもっと何かいい解決策があったんではないかなと思うんです。自身の力を制御して、影を抑え込もうとするとか」


「全部燃えるよ。そんなことしようとしても抑制した感情が暴走するだけだし」


「その中に転機があるかも。エレメナを見てよ」


「私は変われた」


「その力は私の影の断片じゃないか。大変だったろうね」


「でも克服したわ」


「それは凄い、いったいどれほどの苦労をしたのかな」


「……」


 それはもう存在が消えてしまうくらい苦労をした気がする。


「とにかく君たちは本当によくやってくれたよ。今や雑音もすべて消えた。ここから新たに私は何気ない生活を送ることにする」


「あなたは罪を償う必要があります」


「なんのことかな。私は意図して影を生み出したわけではない」


「でも元凶なのは確かです。今更言い訳が通用するはずがありません」


「そうですか、じゃあ、どうしろと」


「ここでおわらせますよ」


 殿下は突然剣を向けた。


「おやおや強情だね」


「あなたのせいで多くの犠牲が出ました。罪は償ってもらいます」


「別に構わんよ。私の運命はもうあなた方にゆだねているからね。影を倒してくれたことはそれだけでかいことなんだ」


「そうか」


 殿下は迷わず剣を振り下ろした。


「思えば長かった、私は理解してもらいたかった。根底から支えているのは私達だったのだと。先祖から私の魔術の根源をつくりだしていたのだと」


 その時殿下の剣が止まった。


「あなたの発言はあまりに遠回しすぎる、最初から恨みではなく理解を得るよう努力すべきだった」


「難しいことだね。力を持つ者にしかこの苦しみはわからない」


「そうですか」


「それにこの状況ある意味で、影はお前を本能的に予知して狙っていたのかもしれないね」


「確かに私を狙うのは主を思うなら妥当かもしれない」


「ま、影と私は無関係だがね。最後に教えてくれないか。私は悪かったのか」


「何も悪くないですよ」


「ただあなたにその能力を授けた。この世は残酷なだけだよ」


「そうだね」


「さよなら」


 殿下は剣を振り下げるのだった。

 


「終わりましたね」


「ああ」


殿下の目には悲しみが宿っていた。多分店主を思って事の行動なのだろうと思う。


 彼がいればこの先も緑陰の魔女のような存在が生み出される可能性がある。


 それくらい強大な力にはリスクが伴うのだ。


 時に人への脅威になる凄まじい力、それにはより戻しが来る。


 殿下の剣閃を受けた店主の表情はどこか、つきものが落ちたかのように清々しいものとなっていた。



「難しい問題だったが、これで全ては終わりだ」


「私としても力の付き物が落ちた感覚です。これでやっと解放されました」


「禍々しい、あまりにも大きい存在感が消え去りました。私達にとってはあまりにもこびりつくように、長い苦しみ、ここまで因果を生み出すことになるとは思いませんでした」


「そうだね」


 なんだかしばらく沈黙が流れる。長い間頭を悩ませた展開が全て終わったのである。


「殿下、それじゃ行きましょうか」


「そうだなミケレ」


「私も混ぜてください!」


 私が殿下と手をつなごうとすると、エレメナが突然割り込んできて、殿下に体を押し付けた。


「なっ! この泥棒猫が!」


「ミケレさん怖い……けど諦めません」


「二人とも落ち着いてくれ」


 全てが解決したわけであるが、私たちの殿下争奪戦はまだまだ続くのだった。



「でも今回のところはミケレ様の勝ちです。私はお二方の関係も応援してますのよ」


「エレメナ」


 曇りのない笑顔で私を応援してくれるエレメナは凄く眩しかった。


「それではお先に」


 殿下と私を二人気にするためにエレメナは先にお城に帰るのだった。


「ミケレ、やっぱり僕は君のことが好きなようだ」


「私もそうですよ」


「まあ無論な話だったな」


「そうね私たちは元々こういった関係だったわ」


 もはや何もなかった。ただ長い夢を見ていただけなのだ。殿下が私を拒むなんてありえないし、そんなのは悪夢以外の何物でもないのだから。

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