第55話 後日談2
「どうしてそんなことになったのですか」
私はいきなり結論から問いただす。
「いきなりそこからとはね。長くなるけど、というかここから先は私の一方的な愚痴みたいなものになってくるけど、聞いてくれると嬉しいよ」
「いいですよ」
他のみんなも、うなづいた。
「それじゃあ、話せてもらうよ」
店主の話が始まった。
君たちにはわかるかい、能力はあるものは使われるだけ使われるんだ。
奴らはいつもそうだった、私を都合のいい道具としてしかみていない。私が出した莫大な成果を、当然のごとく享受するだけの立ち回り、あまりにも私にとっては仕方のないものだったんだ。
次第に私の中に黒い意志が芽生えたんだ。それが分離して、強い衝撃を生んだ。
その時の衝撃で私はここに飛ばされた。
それからどれくらい時間がたったのか、正直思い出したくないな。
知らない世界で、知らない間に過ぎ去っていく時間が、絶望として私を覆うんだよ。
強い思いというのは強い幸福感を得ることができる。だけどそれはほんの一瞬さ、その思いをかみしめていると、気が付けば時間においてかれ自身の精神は枯れるんだ。
いまでもあの日の思いを抱いているよ。今の時間との乖離、永久の時間のずれは本当に恐ろしいものだと思ったよ。
ふと今の世界を見ると、全くわからないものが広がって嫌いになるんだ。そしてその世界で過ぎ去る時間の中でも日に日に怨嗟の思いがこみ上げてくるのさ。
だからすべてを発散したんだ。そんな時影が生まれた。
そんなこともあってから今の私はただの抜け殻さ。抜け殻が今更どう過ごそうなんて考えることはない。大人しくこのまま思うままにやらせてもらうよ。
「これが全ての動機だが」
「でもあなたは必死に演説してたではありませんか宰相さん」
「やはり、宰相」
「ミケレ、それはどういうことだ?」
私とエレメナは正体に気づいていた。
「やっぱり気づくんだね。君たちは凄いよほんと」
「改めて詳細を聞かせてくれませんか」
「いいよ、別に」
利用されにされていた我が先祖達は、怨嗟の声へと変わった。
楽しかった過去は一瞬で怨嗟の声に飲まれて行って一変した。
終わらぬ怨嗟の声を聴いておかしくなった私は、沈黙と長い期間の末、遂に決断したのだ。全てを終わらせる、そう誓った意思の元演説を始めた。
驚いたよ。私の演説は誰の耳にも届くことはなかったのだからね。絶望はまだ終わらない。
次第に苦しみが体を襲ってきた。老いによる能力低下は避けられるものではなかった。
なので、今すぐ動くしかない。
そうする他ないのである。
これを反芻する。私のことなど誰にも理解できないのが小娘ごときがつけあがるな。
心の靄は見る見るうちに肥大化していったね。
影が分離してからは一瞬だった。
私も驚いたよ。分離した意思があんなに自由に動き回るのだから。
でもだんだん確信することになる。
もう止めることはできない、ある意味で先祖の時代からの積み重ねだったんだなとね。
私の先祖はみな魔法術に優れていた。しかし例に漏れて私の実力は劣っていた。
だから私は前戦ではなく、当事者として自ら手を下さない立場を目指すことにした。
だけど不思議かな、私には確かに先祖たちのような優れた部分があったのだ。ただパラメータが戦闘に振れていないだけだった。
私の能力は自身の思いへと呼応して、感情を具現化するものだった。
しかし自覚もないし制御することもできない。
次第に私は理解するのをあきらめたよ。姿実態はわからないが、何か感覚だけがうごめいていて、その存在は大きくなっていくんだ。
私は何も考えないことにしたね
でも無視できなくなった。
そしてこの雑音を消したかった私は、時間移動を決意した。もうすべて忘れてしまいたかったかのようにね。
だから姿かたちを全て変えた。
私は王女が嫌いだった。何も苦しみを味わっていないのに、みんなを助けるかのような戯言を言っている小娘がね。
そんな単純なものじゃないんだよ。人の感情というのは。
私がこれだけ絶望してきたんだから。
何もかも失敗したね。だから消えてしまいたかった。
時間移動との衝撃の元、私は消え去った。
ある意味影の意思は私の王女への意思を反映したのかもね、王女は一時だが災難に見舞われた。ある意味ざまあないなと思ったよ。
この世界に来た私はしばらくの間幸せだった。
でも次第に緑陰の魔女のうわさを聞いたときは私は影だと絶望した。
どうやら雑音は私が認知することでこそ、起きうるものなのだろうね。
それから私の耳に聞こえる雑音が消えることもなかった。
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