5
夕方。
帰路に着いていた。
なんでこんな時間まで外にいたのかと言えば、ヴェルニアに付き合わされたからだ。
ギルドの仕事を受けた関係でヴェルニアの診療所は本日お休みにしていたたそうで、どうやら暇だったらしい。
奴は昼食の後も買い物に付き合えだの、荷物持ちをしろだの、家まで送れだの、こんな時間までになったのだから一杯付き合えだの、散々俺を振り回してきた。
キルが家に居れば、すぐに帰っていただろうがヴェルニアの言っていた通りキルが居なければ俺も暇なわけで、文句を言いつつも一々付き合ってしまった。
日が落ち始めて一層涼しくなった風が街の中を吹き抜けた。
普段ならば少し肌寒いかもしれないが、今はほんの少しだけ飲んだ帰り道。
仄かに火照った体には丁度良かった。
いつの間にか、すっかり変わってしまった気がする。
昔の俺はもっと、常に何かにイラついていた。
きっと昔の俺ならば今日のように女に振り回されることをよしとしなかっただろう。
それを良しとしてしまったのは、すっかりおっさんになったからかもしれない。
けれど、きっと違う。
俺の変化の原因なんてものはどう考えたって明確だった。
「ドレ……!」
不意に背後から声が掛かった。
よく知っているその声に俺は特に警戒することもなく振り返った。
そこに居るのは虚ろな目をした幼い美少女。
「おー、今帰りか?」
「うん。そう」
俺が訊ねるとキルは満足そうに頷いた。
「随分、遊んだんだな」
「うん。……ドレは? ドレも……今帰り……?」
「おう、滅茶苦茶な女に振り回されたせいでな」
「滅茶苦茶……?」
キルはヴェルニアを思い浮かべなかったらしく首を傾げた。
その姿がなんだかおかしくて俺は思わず笑った。
笑った俺を見て、キルはもう一度首を傾げた。
「今日は楽しかったか?」
「今日……? 楽しかった……!」
キルがゆっくりと楽しそうに今日の出来事を語り出した。
きっと、酔っていたからだろう。
俺はその様子を見ながらキルの頭を撫でた。
突然のことに最初は言葉を止めて不思議そうにしていたキルだったが、やがてくすぐったそうに笑った。
「さて、帰るか」
「うん」
キルの手を取って、俺は夕暮れの街を歩き出した。
ドレとキル ひゃくま @hyakuma
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