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 「あー……。で俺はなんでお前と飯なんか食ってるんだっけ?」

 昼だった。

 ギルドに隣接された食堂はいつも通りの賑わいを見せていた。

 遠くの方では冒険者数名が大食い対決でもしているのかその喧騒がこちらまで聞こえて来る。

 そんなうるさい食堂の目立たない端の席。

 喧騒から離れるように俺はそこに座っていた。

 目の前には先程注文した日替わり定食と、そして。

 「私の仕事もちょうど終わったからだな」

 ヴェルニアがいた。


 健診が終わって、やっとこの女と離れられると思ったのも束の間。

 「ちょっと待っとけ」

 と呼び止められた。

 それに従う理由は特に無かったが、後で文句を言われるのも面倒なので俺は棒立ちのままヴェルニアを待った。

 もしかしたら検査結果に何かあったのかもしれない、なんて考えながらヴェルニアの方を見れば、奴は何やら診察室の片付けを始めていた。

 理由が分からないまま、俺はその様子をぼうっと眺めていた。

 ヴェルニアは慣れた手付きで素早く片付けを終えると、診察道具の入った鞄を持ち上げて立ち上がりこちらを見た。

 「さあ、行くぞ」


 「今日の健診はお前が最後だったんだよ。だから、あとは昼飯食って帰るだけ」

 ヴェルニアは俺とは内容の違う日替わり定食に口を付けながらそう説明した。

 「それでなんで俺がお前と飯を食わなきゃならんのだ」

 文句を言いながら俺も定食に口を付けた。

 この食堂の名物でもある定番スープは今日もいい味を出している。

 「どうせお前も暇だろう」

 「暇とは限らん」

 「キルが居ないのに?」

 「ぐっ……」

 コイツにキルが遊びに行ったことを告げたのは失敗だったかもしれない。

 ヴェルニアはしってやったと言わんばかりにほくそ笑んだ。

 その態度がムカつく。

 「まぁまぁ、そうカッカすんなよ。こんな美人と飯が食えるんだから別にいいだろう?」

 「自分で言うな、自分で」

 まったくこの女は、なんて思いながら食事を進める。

 ふと、目が合うと今度は穏やかな笑顔を見せた。

 ヴェルニアは自称しても嫌味ではないぐらいには実際に美人で、その笑顔を見ると俺も吊られて表情を崩してしまった。

 それは穏やかな時間だった。

 周りの喧騒はうるさいけれど、窓から見える日差しは柔らかく気温も穏やかで。

 食事の途中だが、俺は思わず窓から覗く雲のない空を見上げてしまった。

 サンドイッチを持たせておいたが、キルも今頃食事をしているだろうか。

 そんなことを考えてしまうことが、らしくなくて俺は俺に呆れたように苦笑した。

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