三題噺「紫色」「テント」「役に立たない運命」

はちみつプログラム

紫だらけ

 紫色のテントがズラリと並ぶキャンプ場。

 十や二十どころではなく、百、二百と山の景色を塗りかえるほど、ある意味これが山のもう一つの景色なのではと思うほど、見応えのある光景だ。


 そんな景色を眺め、楽しいんでいる時間は私にはない。

 私はこの紫色だらけのテントの住宅街の中から、自分の紫色のテントを見つけるという、難題にぶつかっているのだから。


 今日は年に一度の連休に入り、テレビの広告に乗せられてキャンプに思い立ったのだが、それは皆さん同じ考えだったようで。

 キャンプに来たのはいいものの、生憎私はキャンプ初心者だったものだから、当然キャンプ用品は持ち合わせてないどころか、知識すらない。

 なので、私はとりあえずキャンプ場に訪れるとキャンプグッズをレンタルできる店に立ち寄り、発注ミスにより大量の紫色のテントが並べられた(寧ろ紫色しかなかった)コーナーから一つとり、薪と串だけは購入して会計にうつる。

 そしていざ、キャンプ場について見れば、目を疑う奇妙な紫色の景色に絶句した。

 皆、自分のようにテレビか雑誌の広告を見て思い立ったのか、キャンプ場入り口から奥の坂道まで、びっしりとテントぎゅうぎゅうに敷き詰められていた。

 私はとりあえず歩いたが、どこまで行ってもテントテントテントばかりで、空きスペースなど一切見当たらなかった。

 気がつけば、駐車場が小さく見えるほど山道を歩いていた。キャンプ用品を持っていることもあって疲労で息が上り、くたくただ。

 どこか木陰で休みたいものだが、このキャンプ場はオープンに芝生が敷き詰められているため、木なんてかなり奥に進まなければ、ぶつからないのだ。


 こんなことならキャンプ場に来るんじゃなかったと後悔する。

 テレビのニュースでは占い一位になっているというのに、役に立たない運命だ。

 さらに奥に進んだ時だ、ちらほらとテントが立てられるそうなスペースが見えてきた。

 私は適当に空いたスペースにテントを置いて陣取りをする。

 前にも言ったがキャンプは初心者なため、テントを貼るのに時間がかかったが、なかなか楽しかった。

 貴重品は財布しかないので、ポケットにしまいこみ、他はテントの中にしまった。


 一時間ほどして休んだところで、空腹感があるのに気づく。

 そろそろご飯をと考えたところで、何を食べるかに至るのだが、どこに行けば飯が食える?

 キャンプ場のレンタルショップまで行けばレストランか食材があるのだろうか、いや、あそこからここまで長いみちのりだったことを考えると、とても行く気になれない。

 かといって山で何か探すしかないか? などと考え時だ。

 隣のキャンプからいい匂いがした。

 見れば焚き火の周りに魚を焼いていたのだ。

 尋ねてみれば、どうやら近くに川があるらしく、そこで釣りか、または既に捌かれた買える魚がかえるということなので、足を運ばせることにした。


 思えばこの考えが迂闊だったのだ。


 私は折角山に来たのだからと、釣りを楽しみ魚をゲットした。調理はキャンプ場のスタッフに任せて、あとは焼くだけの簡単な作業が残された訳なのだが。

 いざ川から出れば、そこには大量の紫色のテント。


 さて、自分のテントはどこにあるのだろうか?


 私はここか、ここかと探し回った。

 魚が腐るのが怖くて一度川に戻り、来た方向から記憶を頼りに進んでいっても間違いだらけ。

 勝手にテントのドアを開ければ泥棒と勘違いされる始末だ。

 あぁ、最悪だ。


 今日は折角の休日だというのに。


 やっと自分のテントが見つかった時には、すでに夜をむかえていた。

 家族連れやただ試してみたかっただけという者は帰ってしまい、残ったのは最後までキャンプを楽しむ人や望遠鏡を担いで天体観測をはじめる人だけが残った。


 日が下がる頃には、多くのテントが消えていく光景は圧巻だった。まるで遊牧民の大移動のようだ。


 あとにぽつんと残った無人のテント。

 開ければ見慣れた私物があり、そこが自分のテントだと確信したときには、持った魚が生臭くて敵わなかった。


 今日一番の最悪な出来ごとだったが、月のない夜空を眺めると、そこには散りばめられた星屑が光っていた。


 薪に火をつけ、マシュマロを串に刺して焼いて食べた。


 色々あったが、変なトラブルに巻き込まれ小さな幸せを見つけた変わった休日だった。


 役に立たない運命だと思ったが、怒りを覚えたが、まぁ許してやるとするか。

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