第119話 即潰されてしまうだろう



 ありえない。


 この子たちを産むためにどれほどの長い年月をかけて魔力を蓄えてきたと思っているのだ。


 それこそワイバーンどころか竜種も産むことが出来るほど魔力を貯めてきたのである。


 それら私の子供たちが人間どもに蹂躙されているとでも言うのか?


 それこそありえない話である。


 竜種一匹ですら人間の中でもかなりの手練れを数十名集めてようやっと倒せるか倒せないかというレベルであり、始めに数日間下級の魔獣たちばかりを攻めさせたことにより疲労もピークに来ているであろう所にドラゴンを含めた大型魔獣たちを向かわせたのである。


 いくら手練れたちが数十人奇跡的集まっていたのだとしても数日間不眠不休では本来の力の七割も出せないであろうし、何よりも竜種は一匹だけではないのだ。


 竜種だけでも何百、ワイバーンやオーガなどの大型の魔獣に関しては何千と産んでいるのである。


 流石にこれらすべてを人間どもが蹂躙しているというのは流石に考えられないだろう。


 しかしながら未だに人間どもの街まで攻めきれていないどころか糸のように繋いでいる魔術から魔獣たちの恐怖が伝わってくるところを鑑みるに、蹂躙ないし殲滅されているとしか考えられないのである。


 これでは私は地上で何が起こっているのか分からない為出るに出られないではないか。 と、そんな事を思っていたその時、私は今まで感じた事のない程の悪寒を感じる。


 何が理由で悪寒を感じてしまうのかは分からないのだが、それでも私の身にとんでもない攻撃がされるのではないかという恐怖が襲ってくる。


 魔王のこの私がである。


 そして、魔力の糸からは今まで伝わって来ていた恐怖の比ではない程強い恐怖心が伝わってくるではないか。


 流石にここまできてまだ尚『大丈夫だ』『思い過ごしである』などとこの異様なほどの恐怖心を無視できるわがなく、一か八か地上に出でて逃げるか、そのままさらに地下へと逃げるか考え始める。


 地上に出た場合、敵を撒くことが出来るが敵に見つかってしまう可能性が非常に高い。 そして地下の場合は四方八方好きな場所へ好きなように逃げる事ができる地上と違い、穴を掘って逃げたところで一本道となり、その逃げた痕跡を見つけられたが最後、即潰されてしまうだろう。


 まさか魔王となって数千年、これほどまでに脅威を感じた事は初めてであり、それ故に逃げるという事をしたことも考えたこともなく、どうすれば最善策であるのかが分からない。


『見つけた』


 そしてどう逃げようかと決めあぐねていたその時、明らかに私の産んだ魔獣からきたものではない別の声が私の頭の中で聞こえ始めたではないか。

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