第118話 感じた事の無い恐怖



 まったく、使えない女だな……。 と思うものの、俺自身も分からないのだから他人の事をとやかく言えないという事実が俺を苛立たせる。


 そもそも、この少女の言う通り今までレンブラントは見たことのないような魔術ばかりを行使しており、そのどれもがとんでもない威力ばかりである為、いくら弟子とはいえ見せる事ができる場所がそもそも無かったのであろう。


 街中や学園内にある修練場を使うと大惨事になる事は免れないだろう事は容易に想像できてしまう。


 そして、それほどの魔術を俺は行使できるかというと、一つも行使できる魔術が無いのである。


 そもそも魔術師用の修練場が『魔術師が魔術を試してみたりする場所』として作られている為高段位魔術にも最低限耐えられるように作られている。


 流石に同じ個所に何度も高段位の魔術を使われるといくら修練場と言えどもただでは済まない可能性はあるのだが、それだけであり周囲に甚大な被害をもたらす程ではない。 所詮は修練場の修理代金を払わなければならなくなるのと、その修練場を使っていた魔術師に迷惑をかけてしまうくらいだろう。


 そして俺は一つも行使できないような高威力の魔術をレンブラントは先ほどから連発している上に魔力が枯渇する気配すらないどころか今まで以上に高威力な魔術を行使しようとしているのである。


 どこまで俺を馬鹿にすれば気が済むのだろうか?


 そんな事をつい思ってしまうのだが、そもそもレンブラントは俺の事など何とも思っていないであろう。


 俺ですら下位の魔術師には興味ないのだ。 レンブラントとてそれは同じであろう。


 その事がまた俺に怒りの感情をもたらしては、次の瞬間にはその怒りの感情を抱いてしまっている俺自身を客観的に見てしまい、惨めな気分にさせられるのであった。





 おかしい。


 そろそろ私の子供たちから人間どもの阿鼻叫喚の声が聞こえ始めても良いくらいであるのに、一向にそのような甘美な声は聞こえてこないのである。


 それどころか、数時間ほど前から私の子供たちと繋がっている魔力の糸が一気に無くなっていくではないか。


 そんな事など地上で私の子供たちが一気に殲滅させられていない限りあり得ない。 そして人間たちにそんな事などできよう筈がない。


 人間共にしてはかなり耐えた方だとは思うのだが地竜などは対処の使用も無くただ蹂躙されるだけであるはずだ。


 そう思いそれらを疑問に思っていると、子供たちにつながっている魔力の糸を通して今まで感じた事の無い恐怖が一気に私の頭の中へと雪崩れ込んでくるではないか。

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