第120話 もとよりそのつもりだ
「だ、誰だっ!? どこから私に話しかけてきているっ!?」
おそらく、私の子供たちを虐殺している人物であろう者である事は分かるのだが、周囲に意識を向けてもそのような人物がいる気配もなく、であればどこから私の脳内へ話しかけているというのか。
分からないという事がより一層私へ恐怖心を植え付けて来る。
魔王として生まれ生きてきた中で私は今初めて狩られる側という立場、そしてその立場によって狩られる恐怖という感情を感じていた。
以前勇者とかいう奴に封印されたときですら、数百年、長くとも数千年封印されていれば良いだけであり死ぬわけではなかった為、封印されそうになったときは怒りや憎しみといった感情は感じていたのだが、恐怖までは感じていなかった。
しかし今は怒りも憎しみといった感情も抱いておらず、ただ純粋に恐怖が私の感情を支配していた。
「し、死にとうないっ!! 私はまだ死にとうないっ!! せっかく長い年月を経て封印を解術し、そして更に数百年にもわたって力を蓄える為にひっそりと暮らしってきたのじゃっ!! 頼むっ!! 殺さないでおくれっ!!」
「あぁ、もとよりそのつもりだ」
「…………………へ……?」
そして、どこから私に話しかけているのか分からないのだ、私に話しかける事ができているという事は会話ができるのではないかと思った私は人間(確認していないので予想ではあるのだが)相手に命乞いをする。
プライドでは腹は膨れないし、そのプライドのせいで死んでしまっては元も子もない。
生きていてこその物種である。
そして、私の生きたいと言う強い思い故に通じたのか、相手の強さが異次元過ぎるが故に通じたのか、私の命乞いは相手に伝わったようで会話ができたではないか。
命乞いしてみるものである。
そして、相手の返事なのだが、内容的には『元から私を殺さないつもりであった』とも取れる為ホッと胸を撫で下ろすのだが、その声が当初のように念話ではなく、実際に私の耳から聞こえて来た事に気付く。
「最初はお前を殺して終わりだと思っていたが、呪いにかかっている事、そしてその呪いのせいで人類を憎み滅ぼすように洗脳されている事に気付いてしまっては、殺して終わりでは流石に後味が悪すぎるからな……」
いったいどこにいるのか。
そう思い周囲を見渡すと、くたびれたローブを羽織り、寝惚け眼に無精ひげを生やした男性がだるそうにして立っているではないか。
そしてその男性はローブのポケットからはがきサイズで厚さ一センチ程の、金属製の入れ物を取り出すと、その入れ物を開けてタバコを一本手に取り口に咥え『パチン』と指を鳴らしてタバコに火をつける。
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