第72話 少しばばかり腹が立っていた、

「しかしながら国王陛下、ルールはルールです。 そしてそれはダグラスも同じです。 むしろルールを設けえる事によって魔術を行使する技術という点に関しては、ルールを設けていない場合よりも如実に差がついてくるものと思います。 単純に魔力量が多い者が広範囲攻撃でもって即死級の魔術を行使するだけであれば、その魔術を行使できるだけの魔力量があればだれでもできますし、そこに魔術の技術も何もありません。 ただその魔術を行使するだけでいいのですから」


 おそらく俺はあの日の試合を軽視されているみたいで、少しばばかり腹が立っていたのかもしれない。


 もちろん国王陛下にあの日の試合を貶しめたりバカにするような意図は無いことぐらいは理解しているのだが、それでも俺は国王陛下と言ども言い返さずにはいられなかった。


 先ほどの国王陛下の言い方であれば、まるで『ダグラスはルールに守られていたからレンブラントに勝てただけだ』言っているように聞こえたのだ。


 そんな事、ダグラスだって同じではないか。 むしろダグラスは俺と違って本物の天才であるのだから高等部のルールならば俺と同じように全力を出して戦う事が出来なかったであろう。


 それは、あの日の俺たちはお互いに全力を出せない足枷をされた条件下で戦ったという事になり、俺が全力を出せなかったから負けたのだというのはダグラスにも、そして俺にも失礼な表現であろう。


 そう思えるほどには俺もダグラスもあの日あの時の試合はお互いに人生をかけて本気で戦ったのだから。


「す、すまんな。 そういうつもりで言ったんじゃないんだが、気を悪くしたのならば謝罪しよう」

「いえ、あの日の試合を貶めようとしての発言ではないことは理解しております。 むしろこちらの方も少しばかり感情が先走ってしまった事をお詫びします。 ですのでどうか頭をお上げください。 こんなところを他の誰かに見られては大変でございますので」


 そしてお互いにこの件は謝罪して一旦終わらせて、本題へと移る。


「それで、何故私がわざわざ呼ばれたのでしょか? 私を宮廷魔術師レベルであると見込んで呼ばれた事はわかりましたが、それでも宮廷魔術師がいる以上そちらに任せれば良いのではないでしょうか? ましてや私は魔術から離れて数年たちブランクがある事を考えれば猶更そう思うのですが?」

「ふむ、そう考えるのも当然、しかしこれは国王として恥ずかしい内容なのだ。 そう単純に宮廷魔術師が不足しており、前々からサーシャからレンブラントの事を聞いておってな」

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