第70話 サーシャの狙い、

「しかしながら、それでも私はあの日ダグラスに負けた事も事実であり、そして今ではしがない数学教師なのも事実で、卒業してから魔術に関しては全くと言って良いほど関わって来ていなかったのも事実でございます。 確かに高等部時代までは自分でもそれなりの実力があったというのは自負しておりますが、それでも高等部最後の大会ではあの【絶色】と呼ばれるダグラスに負けて宮廷魔術師になれなかったのも事実でございます」


 なので俺は国王陛下へ自分の立ち位置を説明する。


 サーシャが俺の事をどのように国王陛下へ伝えているのかは分からないのだが、国王陛下自ら俺の事を呼んでくださった事からもかなり良いように改変して伝えているであろう事が窺えて来る。


 流石に無いとは思うのだが、それこそ宮廷魔術師よりも強いだの魔術に長けているだの言われていたとしたら目も当てられないので、ここはまずその事を訂正していくべきであろう。


 出なければ面倒くさい事に、それこそ宮廷魔術師になるように、などと言われては目も当てられない。


 そうでなくとも『空いた時間に宮廷魔術師のサポートをお願いしたい』などと言われる可能性だってあるのだ。


 なんならサーシャの狙いはこれである可能性が高い気がする。


 どうせサーシャの事であるので俺をサポートとして借り出しまくって仕事を少しでも楽をしようと俺を扱き使いたいという思惑が透けて見えるような気がしてならない。


 そんな、どう考えても面倒くさい事など心の底からお断りであるし、お金がどうしても必要という訳でもないのでいくら好待遇であったとしても俺には魅力的な提案には見えない。


 そもそも数学の教師という仕事だけで年収はかなりのものである上に、そもそも数学の授業自体が少ないので半日はする事が無い上に前世の知識がある俺からすれば数学とは言うもののそのほとんどの授業内容が算数と言えるようなレベルである為かなり楽をさせてもらって少なくない給料をもらっているのである。


 俺からすればまさに天国と言える職場なのだが、だからこそ宮廷魔術師の手伝いはやりたくないのである。


 こんな恵まれた環境であるにも関わらず誰が好き好んで数学教師のほかに、ただでさえ忙しそうな宮廷魔術師絡みの仕事をしたいと思うのか。


「それは逆にお主はあの【絶色】のダグラスがいなければその年の卒業枠で宮廷魔術師となれたはずであるし、それほどの実力を持っているということじゃろう。 お主も知っているだろうけどあのダグラスは今年の宮廷魔術師の実力を見る大会で今年も危なげなく優勝しておる」

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