第64話 俺の方が、


 その内容に俺は自分の中の怒りがふつふつと湧き上がってくるのが分かる。


 そもそも今回も宮廷魔術師を決める試合で俺が優勝したにも関わらず、何でヴィクトリア王女の師匠が俺ではなく何の実績もないレンブラントなのだ。


 その時点でアイツが裏で何かしら不正をしているのが分かるのだが、にも関わらずサーシャはレンブラントが不正をしていると話すのではなく、アイツの事をまるで自分の事のように、実に嬉しそうに褒め始めるではないか。


 サーシャがかつて俺の話題であそこまで嬉しそうに話した事があっただろうか?


 その事がまた俺の中にドス黒い感情を溜め込んでいく。


 サーシャが強い魔術師が好きだと言うから、帝国一の魔術師となるべく努力をしているのに、毎日毎日朝起きてから寝るまでサーシャの事を想っているというのに、サーシャは何故帝国一の魔術師である俺ではなく、宮廷魔術師ならばいざしらず、魔術学園の魔術の講師でもなく数学の講師でありサーシャに対して好意を寄せるどころか常に側にダークエルフの女性を侍らせて同棲しているような奴の事を何故サーシャはあんなに気にかけているのか。


 俺の方がサーシャの事を思っているのに、俺の方がサーシャの事を見ているのに、俺の方がサーシャの事を考えているのに、俺の方がサーシャの事を考えているのに、俺の方がサーシャの事を愛しているのに、俺の方が、俺の方が、俺の方が……。


「なんの話をしているのかな? サーシャ」


 もうこれ以上サーシャの口からアイツの話題を言わないでほしい、もうこれ以上アイツの事を想って俺の知らない表情を、それこそ恋する乙女の用な表情をしないでほしい。


 アイツの事を想っているサーシャを見るのは嫌だ。 サーシャには俺だけを見て、俺だけを想って、俺だけを愛してほしい。


 そう思うと俺は、気が付くとシャーシャに話しかけていた。


「…………何? ダグラス。 仕事と関係ない話だったら私興味ないから申し訳ないけど話さないでほしいんだけど?」

「きゃぁっ!! ダグラス様っ!! いらしたんですねっ!! って、何失礼な事を言っているのよサーシャっ!! すみませんダグラス様、こいつ意中の男性の事意外となると本当に興味が無いみたいでして、決してダグラスさんがイケメンじゃないとか、そういうのではないですからねっ! ダグラスさんはイケメンだと私は思うというか、きゃっ、何言っちゃってるんだろう、私っ!?」

「うん、ありがとう。 とりあえずなんでサーシャはここ最近俺の事を避けているんだ?」

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