第33話 無理やり笑顔を張り付けて対応する

 小等部の子供だってどうなるか分かる事だ。


 捕まって拷問されて知識を奪われて殺され、協会が新たに強大な力を得るだけである。


 だからこそ私は気を引きしめ、お師匠様から学んでいる全て、それこそどんな些細な事であろうと門外に出すべからずとより一層強く誓うのであった。





 春の日差しこそ温かいが、吹く風はまだ肌寒いこの季節、学園をサボって俺は愛しの奴隷様であるリーシャと弟子であるレヴィアを連れてとある闘技場へと足を運んでいた。


 今日この闘技場では一般の部と宮廷魔術師の部に分かれて試合が行われる為である。


 レヴィアには同年代の者達の試合を見るよりも自分よりも何ランクも上の者の試合を見る方が、そこから得れる物が多いのではないかと思ったからである。


 因みに一般の部でいい成績を収めた者と、宮廷魔術師の部で悪い成績を出した者とを入れ替える可能性もある為、その可能性がある位置にいる者達の気合の入れようは鬼気迫るものがある。


 それもそのはず一般の部と言えども冒険者ランクA以上でないとそもそもこの大会にはエントリーできない為天才と名高い宮廷魔術師様と言えど足元を救われる可能性があるからである。


 しかしながら毎年入れ替わるメンツは宮廷魔術師と冒険者を行ったり来たりしており、宮廷魔術師の上位ランカーはほとんど動かない事を考えれば、それだけ見ても宮廷魔術師のランカーと言われる人たちがどれ程化け物であるのかが窺えてくるというものだ。


 因みに宮廷魔術師のランキングは年四回行われる試合の成績で評価される為、宮廷魔術師は宮廷魔術師で今年こそはと意気込んでいる物もちらほらと見える。


「お久しぶりですね、レンブラントさん。こんな所で見るなんて珍しい」


 そして、試合開始時間が近づきピリつき始めた空気の中、俺へ緊張感の欠片も感じさせない声音で挨拶をしてくる宮廷魔術師様が現れ、思わず苦虫を噛み潰したかのような表情になるのをグッと堪え、無理やり笑顔を張り付けて対応する。


「お久しぶりです。宮廷魔術師ランキング常に三位以上をキープしている【絶色】のダグラスさんから挨拶をしてくれるなんて、周りに自慢できる話が一つできましたな」

「何を言っているんですか。一緒に学生時代を過ごした仲じゃないですか」


 コイツレベルともなると人一人の人生を決めかねないターニングポイントであろうと単なる恒例行事なのであろう。


 以前の俺であるのならば怒りや憎しみ、反骨心等と言った感情を抱くのであろうが、今はただただ過去の黒歴史である天才と勘違いしていた凡人時代を思い出して嫌な汗をかくだけである。

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