第32話 これは禁忌禁忌でもある
もしかすれば俺の弟子は無駄に頭の回る脳筋なのかもしれない。
この場合は物理ではなく魔力であるのだがやっている事はそう変わりないであろう。
脳筋に小技を教え、そしてそれを吸収するだけの才能と柔軟な思考を持っている。
とりあえず魔術を撃ってみようと放つ、とりあえずで放たれた一撃がヤバいことになりそうな気がする。
それはこの世にとんでもない化け物を生み出すのではないかと思い、変な冷汗が背中から流れるのであった。
そして分かり切っていた事ではあるものの、再度理解させられる。
凡人であった俺と天才と言われている人達の違いを。
◆
私のお師匠様は凄い。
そう思うのにそう時間はかからなかった。
この世界の基本的な考えは『すべての自然現象には精霊ないし神の力により起きている』というのが一般的であり、私もその事に対して疑いもしなかった。
だからこそお師匠様は座学を始める前に「今までの常識は全て捨てて聞いてほしい」と言ったのだ。
もし今まで培ってきた常識を捨てず、更にお師匠様の事を少しでも信用する事が出来なかったのならば、その後一週間ほどやったお師匠様の座学は『ありえない』『非常識すぎる』等と頭に入ってこなかったであろう。
しかし私はお師匠様の事は全て信じると初めから誓っていたので、座学の内容はすんなりと頭に入って行った。
そして一度理解してしまえば今までの常識は間違いでお師匠様の言っている事の方が正しいという事が分かる。
その事が分かってからは更にお師匠様の話を聞き洩らすまいと座学に噛り付いた。
そもそも、この世界は言葉で説明できない現象を全て精霊や神の仕業として強引に結び付けていただけで、すべての現象は条件さえ整えてあげれば起こりうるという事を私は学ぶ事が出来た。
それと同時に、何故お師匠様が【万色】と呼ばれ、すべての属性魔術の質が明らかに頭一つ以上上なのかという事も理解できた。
何故火は燃えるのか? 何故風が吹くのか? 土はそもそも何で出来ているのか? 雨はどうして降るのは? そういった今まで精霊や神の仕業と言われてきた物事を、そのまま精霊や神の御業として思考を放棄して魔術を放つのと、ちゃんと行使する属性魔術の原理を理解して魔術を放つのとでは魔術の質が向上して当たり前だ。
そしてこれは禁忌でもある。
それこそがお師匠様が頑なに弟子を取ろうとしなかった要因であろう。
お師匠様の座学は、世に広まれば間違いなく魔術の進歩にかかる時間を百年以上短くするのは間違いないのだが、精霊や神の否定は即ち教会の否定とされ邪教認定される内容でもある。
そうなってしまえばどうなるか。
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