第31話 違うんだ

 そして俺は震える声でレヴィアにそう聞いてみると、満面の笑顔で答え始める。


 おじさん、その笑顔だけで一発ノックアウトされそうだぜ。


「まず何故土を耕して熱したのか考えた時、この作業は土を耕す事よりも土の中にまで蔓延る根っこや種子などを熱して焼き殺す事が目的だと思ったのと、耕す事によって草が生えている所とそうでない所の高低差を無くし、均一にならす為なのかなと。最後に土を固めたのは、ふわふわの地面じゃそもそもまともに戦えないのと土が硬いと踏み固められた道の様に草が生えなくなるのかな……と」


 合ってますか? と褒めて褒めてと尻尾を振る犬の様な表情で見つめ来ないで欲しい。

 

 俺のただでさえ粉々になっているプライドが風で飛ばされてしまいそうだ。


「せ、正解だ」

「フンッ、当然ねっ!」


 そう言うレヴィアなのだが嬉しくて堪らないという表情をしているので口調でこそ偉そうなのだが全くもって選ぶれていない。


 しかしその事を指摘すれば後々面倒臭さそうであるのと、俺が唯一レヴィアに勝てるの箇所だという小さなプライドが邪魔して気付かないフリをする。


「それで、初めはお師匠と同じようにやろうと思ったのですけれども、そもそも今の私じゃお師匠様程大きな鉄を作り出す事が出来ませんので、そこでこの実技の真の目的を知ったのです」

「ほう?」


 真の目的? それは何を隠そう俺がサボる事であるのだがそんな感情など微塵も表情に出さず、出来る師匠の表情を貼り付け、偉そうにレヴィアへ相槌を打って話の続きを促す。


「それは、高段位魔術を使わなくても工夫と組み合わせ次第では低段位の魔術でも同等の事を、むしろそれ以上の結果を生む事が出来るという事を教えたかったのですねっ! 私、感服致しましたっ!」


 違うんだ。


 俺はそんな事など微塵も思ってはいなかったし、何ならサボろうとしてましたと言ってしまえばどんなに楽であったか。


 しかし、俺には純粋無垢な笑顔を悲しみで歪める勇気など無かった。


「流石俺の弟子なだけはあるな。教え甲斐があるというものだ。それで、レヴィアの考えた工夫とは何だ?」

「それは鉄を一塊にして使うのでは無く、操作できる範囲で小さく、そして大量に作ると熱して土の中で縦横無尽に動かした後、板状にした鉄を均等に魔力を注ぎ押し潰しました」


 何だろうか? そこはかとなく土の中で無数の小さな鉄球を動かしてみたりプレス作業しかり無理難題は有り余る魔力でゴリ押しすれば良いという脳筋思考が透けて見える気がするのは気のせいであろうか?

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