42話目 線香花火が落ちる時
「プギッ……ヒィ……」
「よしっ、海もみんなで来れたし! いい運動も出来たし! ファミレスでも行こっか!」
それは流石に意味わからんぞ、ルイ。
海に来ることが目的じゃなくて、海に来て遊ぶことが目的のはずだろ。
やっとこさ着いてやった事、マサルしばき倒しただけじゃねえか。
「……まだ、私海との交信済ませてない。……行くなら勝手に一人で行って」
「はぁ? まだ私に喧嘩売ってくるなんて、アンタも懲りないね。車内での悪夢、繰り返してあげよっか?」
「うっ……」
コステレさんは、ルイに勝てないのなんてわかりきっているのになぜ突っかかるのか。
こうなると、間を取り持つのは必然的にこの人になってくる。
「まあまあ。せっかく海に来たんですし、少しお散歩でもしましょうよ。砂浜で遊んでもいいし、海の家とかもあるみたいですよ」
「……まあ、しーちゃんがそう言うならそれでもいいけど」
なんか、ルイだいぶ思考停止してるな。
友達が言うことなら、とりあえず聞きます状態になってないか?
ルイは尻を叩かれまくってグッタリしているマサルの両足をつかみ肩に背負う。なんか、一狩り終えたハンターみたいになってる。
そのまま皆で砂浜へと降り立った。
季節に反してそこまで海水浴者は多くなく、パリピ集団というよりも家族連れが多い印象だ。治安が良いに越したことはない。
なんせこちらは爆弾を三つ抱えているようなものだ。
「……とりあえず、私は海との交信を行う。……集中するから、皆しばらく黙っていて」
「どーしよっか? とりあえず、コイツを砂に埋める遊びから始めよっか?」
「や……やめろ……」
ルイは結城さんの頭を鷲掴みにしながら、ほくそ笑んでいる。仲が良いのか悪いのか。いや、悪いんだけど。
ただ、この二人の絡みが今日一番多いのは確かだ。
そんな二人はさておき、小柳さんは先程から額から流れる汗をぬぐっている。異常な程に白い肌は、こんなにも照りつける日差しの前ではすぐに焼けてしまいそうだ。
「大丈夫ですか、小柳さん?」
「あー、思ったよりも夏の海って暑いんですね。せめて飲み物とかでも、買ってくれば良かったです」
「あ、なら俺買ってきますよ。さっき車停めたところの近くにコンビニあったんで」
「じゃあ、私もお供しますね」
なんとも嬉しいご提案だ。普段であれば喜んでお願いしていたところであろう。
ただ、俺の頭は違う方向へ舵を切っていた。とりあえず俺は行動しなければならないことがある。
「ありがとうございます。でも、大丈夫ですよ。マサルと行ってくるんで」
「マサルさんとですか?」
「いや、ほらっ。こういう買い出しは基本男が行くものですし! 任せて下さい!」
下手くそな愛想笑いを浮かべるが、そんな俺に対して小柳さんは怪訝な眼差しを向けている。
「……金之助さん、今日少し変ですよ。大丈夫ですか? 何かあるなら、私力になりますから」
「いや、特に何もないですよ! 全然大丈夫ですから!」
「そうですか……」
俺の返答に少し顔を俯かせながら返事をした小柳さんを見て、何とも言えない罪悪感が湧いた。
本当は自分の考えていることを全て打ち明けて、小柳さんと一緒に色々な事を解決していく方が良いのかもしれない。
ただ、その選択をしなかったのは謎のプライドだろう。俺は彼女にとってのヒーローでありたいのだ。
「……金之助さん。あまり無理はしないで下さいね」
「えっと……はい。ありがとうございます」
演技力皆無の俺に、さすがに何かを感じとったのか逆に心配をされてしまった。
何とも言えない空気感に耐えられず、そのまま俺の足はルイに背負われていたマサルの元へと向かう。
グッタリしているマサルを軽くペシペシ叩きながら声をかけた。
「おーい、マサル。男勢で買い出し行くぞ。そろそろ起きろー」
「プギャ……? プギョッ!」
マサルは俺の呼びかけに瞬時に反応し"任せろ!"とばかりに砂地へと降り立った。
こいつにとっちゃ、今はルイから離れることが先決なのだろう。
「飲み物買いにコンビニ行ってくる。みんな何かリクエストあれば聞くけど」
「じゃあ、あーしチョコチップフラペチーノ!」
「……私は、ブルーハワイソーダ」
「えっと、私はどくだみ茶でお願いします」
この娘達、コンビニ行ったことないのかな?
どれも売ってるの見たことねえよ。
とりあえず、ツッコむのも面倒臭いしリクエストは聞き流しておこう。
「行くぞ、マサル」
「プギャギ」
俺はマサルを連れてコンビニへと向かった。
◇◇◇
「ありがとうございましたー」
適当にペットボトルの飲み物を買うと共に、ブラックのコーヒー缶を二本買った。
ちなみに、俺が一人でみんなの飲み物を色々考えながら買っている最中、マサルはエロ本を読み漁っていた。
コイツは安定してこういう行動をとってくる。特にもう驚きもない。
コンビニから出たところで、俺は立ち止まった。
先に進んでいたマサルが不思議そうに振り返る。
「プギョッ?」
「……なあ、マサル。戻る前に、そのベンチでコーヒーでも飲まないか? 少し聞きたいことがある」
「プギャ、ブギギッ……プギョッー」
さぞ面倒くさそうな反応をされたものの、案外すんなり了承してくれたらしい。マサルは置かれていたベンチに飛び乗った。
俺はその隣に腰を降ろし、マサルに一本コーヒーを渡した。
「プギョッ、プギャギ」
「いや、まあ。なんというか、ちょっと真剣な話しなんだけどさ」
なんか、コイツと二人でいるって変な感じだな。よく考えてみると、二人きりってファミレスで水売りつけられそうになった時以来だ。
なんとも言えない気まずさがある。
……そもそも、俺とマサルの関係性ってなんなのだろうか。
「プギョッ、プギョッ、プギャギ」
「何言ってるかわからんから、とりあえず俺が言いたいこと伝えるぞ。……みんなは普通に接してるけど、どう考えてもお前の存在おかしいんだよ。見た目は豚だけど人みたいに扱われてて……いや、振る舞いもただのオッサンだし。なのにお前は豚だし……うまく言えないけど、お前は何者なんだ? 何か目的でもあってこの町に紛れ込んでいるのか?」
「プギョッ、プギャギ。プギョップギョッ」
「俺が間違っている可能性もふまえた上で、聞いてるんだよ。それとも、本当におかしいのは俺の方なのか?」
「プギャギ、プギョップギョッ! プギャッ」
全く会話にならないことはわかりきっていた。そして、豚に真剣に語りかけている自分自身がおかしく感じてしまう。
ひょうひょうとしているマサルに対して、俺はため息をつきながらも再度話しかける。
「なあ、何言ってるかわからないんだって。簡単にでいいから、返答をメッセージで送ってくれ」
「プギャギー」
マサルはポーチバックから携帯を取り出し、ポチポチと文字を打ち出す。そんな蹄で、どうやって操作しているのか。相変わらずの不可思議である。
マサルが打ち終えると、俺の携帯にメッセージが届く。俺は生唾を飲みながら、恐る恐るそのメッセージを開いた。
『金之助、マジウケる(〃ω〃) 普通に豚がタバコ吸ったり、パチンコ打つ訳ないじゃん(爆笑) 俺は豚の姿をした神様だから、力使って町に紛れて生活してるのデース( ̄▽ ̄)ジャジャーン』
………………あん?
変な豚のせいで、ヤバめの美少女達に絡まれ始めました フー・クロウ @hukurou1453
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