中々に興味深い短編集でした。作品としてはもちろんのこと、それを書いた作者様への関心も深まるような。一話完結なのですが、それぞれのお話を別人が書いたんじゃないかと思うぐらいウィットに富んでいたのが好きな部分でした。躁と鬱が交互に押し寄せてくるように感じたり、根底には矛盾した一貫性が潜んでいるような、人間らしさが隠れているような。短い文章から、様々な解釈を楽しむことができます。
そうした中でも、やはり「日常」を描いていたのが本作の特筆すべき部分だと思っています。不可思議なことが起こるわけでもなければ、エンタメ的な期待に応える展開もない。普通の日常だからこそ、描くことのできる人間心理といいますか。みんな、人知れずなにかを抱えているということが作品の随所から感じ取れました。
ときにクスっと、ときに頭を捻って。日常が映し出す人間の素顔を見たい方には、是非とも一読してほしい作品です。