第2話 ちょっとした変化

「もう!お兄ちゃん遅い!」

「珍しいね、トモが私より遅いなんて」


 玄関を出ると、2人の少女が待っていた。


 金剛らん。肩にかかりそうな長さの青みがかった黒髪で、目鼻立ちが整っており、可愛らしい顔をしている。スタイルは程よく良いが、若干胸元が寂しく本人も気にしている。甘え上手でこの容姿のため、いろんな人から好かれている。彼女は義妹で、オレが5歳の時に親が再婚してうちに来た。オレのことを「お兄ちゃん」と呼ぶが、同い年である。


 波多野美紅はたのみく。赤茶色のショートボブで、こちらも目鼻立ちが整っていて、可愛さもあるがクールな感じだ。ボーイッシュでとても運動が好きで、体も引き締まっている。同級生の女子の中では身長が高いことから、女性人気もある。彼女は隣の家に住んでいて、小さい頃から交流があり、いわゆる幼馴染である。オレのことを「トモ」と呼ぶ。


「悪い。ちょっと調べものしてて遅れた。美紅も今日早いの珍しいな」

「今日は、部活休みだったんだよ。藍も生徒会が無かったから一緒に帰ってきたの」

「1年生は先に帰って良いよ~って言われたんだ」


 オレの右隣に藍が、左隣に美紅と両手に花の状態で近くのスーパーに行く。オレら3人が中学生になったときに、両親の海外長期出張が決まった。そして美紅の両親も夜勤が多く、お互い子どもだけになるので、ほぼ毎日夜飯を一緒に買い物、料理、食事をしている。

 

「やっと夏休みだよ。まあ部活はあるんやけどさ~」

「私も生徒会で何回か学校行かないとだし」

「大変だな~お前ら」

「トモはヒキニートになるんでしょ」

「あ、そうだお兄ちゃん。ハント手伝ってよ。欲しい素材が全然出らんくて、周回めんどい」

「いやまずは、宿題を片付けてからや」

「意外とそういうのはちゃんとしてるよね、トモ」

「こういうのは先に終わらせてからいっぱい遊ぶんや!」

「じゃあ美紅とお兄ちゃんが終わってから、始めようかな~」

「ちょっと藍!そういうのは良くないわよ」


 スーパー手前スクランブル交差点の信号待ち。何気なく辺りを見渡すと、対角線上の向かい側に見知った女子達がいた。


 たしか……オレと同じクラスでカースト上位の陽キャ集団だ。いつも4人組で遊んでいる。オレの記憶が正しければ、右から『ボクっ娘』『マイペース』『無』『委員長』だったかな?そんな認識。


 4人ともカースト上位なだけあって、藍にも美紅にも負けず容姿も良い。そんな中でも、1人だけ群を抜いて目立つ存在がいる。それが、水無瀬みなせ紫音しおん。腰まである金髪に近いブロンドヘアで、誰もが文句言わずの圧倒的美人で目が奪われる。スタイルも抜群で、凹凸がはっきりしているモデル体型。一度彼女の微笑みを見ると誰もが魅了されるという。あ、ちなみに『無』の人ね。


「トモ?……あ!あれ委員長たちじゃん!おーい!」

「ホントだ!やっほー!」


 オレの視線の先を見た美紅が彼女たちを呼び、藍が大きく手を振る。向こうもこっちの存在に気づいたのか手を振り返している。


 信号が青になり、スーパーの方へ歩き出す。横断歩道の真ん中あたりで、藍と美紅が走り出した。彼女たちもスーパーの方に向かって歩いてたので合流しに行った。


「先行っとくぞ!」

「「はーい!」」


 実のところ、彼女たちとはこの交差点で何度も会っている。最初はお互い、同じ制服の奴がいるくらいの認識だったと思う。けれど、週一で会っていれば向こうも話しかけてくる。そこから何度も話しているうちに仲良くなったらしい。


 なんで『らしい』という言い回しかというと、オレは彼女たちとはあまり話したことがないからだ。家族や美紅は別だが、人付き合いが苦手だ。


「さて、今日はカレーだったな」


 すぐ合流すると思うから、2人に見えやすいように自動ドア付近の野菜コーナーから回るか。じゃがいもと人参と、他は何がいったかな。お、じゃがいもじゃん。どれどれ~。


「お兄ちゃん!それ横の方傷ついてますよ」

「これなんか良いんじゃない?トモさん」

「そうか?どれどれ……ん?」


 喋り方に違和感を覚えた。藍が敬語で、美紅がさんづけ。声のした方を見ると、声の正体に驚いた。


「え!?水無瀬さん!」

「ボクもいるよお兄ちゃん!」

「い、今井さんも!……あれ?藍と美紅は?」

「ちゃんといるよ!」


 後ろから全員がニヤニヤしながらついてきていた。


「何してん……るんですか?」


 びっくりしたが、とりあえず話しかけてきた2人に質問した。


「いや~ちょっとじゃんけんで負けちゃってね~」

「え!?」

「そう。じゃんけんで負けた私とあかりが、金剛君の手伝いをするっていう」

「あ、そういう」


良かった~。ジャン負けの罰ゲームがオレに話しかけることかと思った。軽く死ねたわ~。


「ていうかお兄ちゃん、最初気づいてなかったよね?」

「だよね~。なんか自然だったていうか――――」

「き、気のせいだよ。ちょっと具材の確認をしててね?」


 声じゃなく喋り方で気づいたのは、黙っとこ。


 それから4人と別れ、カレーの具材を買い、家に帰って食べた。それにしても、あの4人が接触してきたのは驚いた。6人の美少女に囲まれるのは心臓に悪い。こんな日は、ゲームして落ち着こう。コマさんは……また明日で良いか。


 今日のちょっとした変化は、何か始まる前兆なのでは?と思ったが、そんな漫画みたいなことはないだろうと気にせずに、オレはそのまま眠りについた。

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ネトモなキミは身近にいる ゐふ @hiyokko27

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