ネトモなキミは身近にいる

ゐふ

第1話 コマさん登録

「いいか?羽目を外しすぎないように、夏休みを過ごしてくれ」


 先生が連絡事項を言い終えたとほぼ同時にチャイムが鳴り、クラスの委員長から号令がかけられた。


 教室内では「夏休みどこ行く?」「この日空いてる?」「じゃあ、コマさんで!」そんなやり取りをしている。


 さっさと教室を出よう。


 今日は、今日こそは、オレもアレをやるために……


「あ!ちょっと――――」


 後ろから荒らげた声が聞こえたが教室を出た。チラッと室内を見たが、男子が誰かに何か言ってるようだった。いや、一瞬でわからんかったけどそんな感じがした。どっちにしろ、オレには関係ないしいいか。


 帰宅し、冷蔵庫から飲み物を取り、自分の部屋へ。パソコンを起動して、とあるサイトを開く。


【高校生マッチングサイト】


 通称コマさん、高校生専用の出会い系サイトである。


 近年、少子化が問題視とされており、国は『高校生から出会いの数があれば、付き合い、そのままゴールインするだろう』というなんとも雑な結論をだし、このマッチングサイトを設立した。それなのに、マッチングサイトは強制登録ではなく任意登録。国がそこまで重要視していないのがわかる。それにしても……


「もっとマシな名前はなかったんだろうか……」


 【登録はこちら】のボタンをクリックする。登録方法は簡単で、入学時に学校から受け取った学生証にマッチングサイト専用IDが載っている。それを打ち込むだけでいい。


「これで……よし、ぽちっとな」


 すると自分のパスワードが表示された。パスワードはちゃんと覚えとかないとな。まあ一応メモ帳に書いておこう。


 次の画面で、自分のプロフィール画面がでてきた。


「これ入学の時の写真じゃん。恥ずいな」


 黒色短髪で若干つり目。顔は、パーツはわりと整ってはいるがイケメンとまではいかない。なんともいえない顔している。


 プロフィールには、入学時または春休み空けの写真と、本名は金剛友樹こうごうともき、性別は男、誕生日は4月22日、学校は鑛輝こうき北高等学校など、基本的な情報が予め載っているのか。空欄になっている項目は、自分で入力する部分だな。とりあえず入力しておこう。



 【ニックネーム】   : トモ

 【部活】       : 帰宅部

 【好きなこと・もの】 : ゲーム

 【苦手なこと・もの】 : 虫

 【得意なこと】    : 特にない

 【趣味】       : 読書

 【マイブーム】    : 今はない

 【その他】      : 一緒にゲームがしたいです。聞き専で構いません。



 こんな数項目に1時間使ったが、とりあえず入力できた。


「まあ、こんなもんだろ」


 【ニックネーム】は、特に決めてなかったが、昔から呼ばれている呼び名にした。【部活】は、もちろん何もしてないので帰宅部。【好きなこと・もの】は、毎日のようにやっているゲーム。【苦手なこと・もの】は、虫。とくにGは駄目だ。【得意なこと】は、昔から器用貧乏でひとつの分野を極めることができない。【趣味】は、ラノベやネット小説などを読んでる。【マイブーム】は、昔は自販機で誰も飲まないような飲み物を買ったりしていたが、今はたまにしかしてない。【その他】は、シンプルに一緒にやりたいこと。他にも自分の性格、こういう人が良いという要望だったり、逆にこういう人は遠慮したいなどを載せていたりする人もいる。


 普通は、こんな陰キャみたいな奴と会話すらもしてくれないだろう。逆にマッチングした人が可哀想な内容だな……これ以上何も考えず登録してしまおう。ポチッ。



プロフィール更新中……



 まあでも、コマさんはマッチシステムだけではない。広場サーバーというのがある。そこでは自分の部屋を作って相手の人に入ってもらうか、気になる人の部屋に入るかで、出会い方を選ぶことができる。いきなりマッチングは怖いから、部屋作って待機するつもりでいる。



プロフィール更新中……



 自分の部屋に来てもらうには、部屋の説明欄を工夫する必要がある。どうしたものか……。そもそもオレがコマさんをやるのは、彼女欲しさはもちろんあるが、正直異性のネット友達のほうが欲しいというのがある。ネトモになって、そのまま彼女になってもらうのが理想、あくまで理想。



プロフィール更新中……



「……って長いわ!」


 たった数項目のプロフィール更新のために、そんな時間かかるか?もうすぐ夜飯の時間で準備せんといかんのに。画面ではハートマークがハートの形に添ってクルクル回っている。イライラしてきた。



カチカチカチカチカチカチカチカチカチカチ



 意味ないのは分かっているが、なんとなく登録ボタンをクリックしまくる。


「お兄ちゃん!買い物いこー!」


 まずい。買い物の時間になってしまった。


「今行くけん、もうちょい待って!」

「ムリ!早うして!」

「あー分かった!」


 夜飯も食べてからでいいかとクリック連打をやめた。だが、最後の3,4回クリックで画面が切り替わった。……2回ほど。


「やべ!連打しすぎて途中の画面わからんかった……。まあでも注意事項とか、この内容でいいですかとか、そんな感じの内容だろう。とりあえず買い物行くか」


 パソコンの電源を落として、玄関へ向かう。


 この見えなかった画面で、今後の生活が大きく変わるとは、この時のオレは1ミリも思わなかった。

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