第3話 工場見学
町会の決定が話されている。逃げ場はなかった。俺らおじさんたちの親もその提案に賛成して、この決定された時間の間は俺たちは家にいられなくなるそうだ。まあそうだろうな、俺”ら”もこういう踏ん切りがつく形で何とか社会とかかわりたいと思っているのかもしれない。俺は両親がもう他界したから関係ないけどね。
「それでね、あなたたち、何て言うの? 引きこもり? 陰キャ? こどおじ? さんたちは、近くのジュース工場で簡単で短いお仕事をしてもらおうと思っているの」
12畳くらいある町内会館に行儀よく並んで座っているいい年をしたおじさんたちに、その工場で出来たであろう日本中でほぼ知られていないジュースが配られた。
「あ、ごめんなさい、血糖値が高い人は別のにしましょうか?」
そこに並んでいるおじさんたちは表情も首の一つも動かさなかった。
「ああ、ごめんなさい、病院なんて怖くて行ってないわよね」
みんながほぼ同時に頷く。
真昼間から町内会館から冴えないおじさんたちが吐き出されてきた。みんな体をかしいで立っている。顔の表情もそうだけど、もう締まりがない筋肉になっていてどう立っていればいいか分からない。こんなことで例え忖度されたとしても仕事なんてできるのだろうか。
一回目はまあ仕方ないという感じで汚い行列がジュース工場に向かっていく。みんな変に一列になって歩いていることに気づいてちょっと吹き出してしまった。多分だけど、自分より下の者には強いけど上の者には余計な争いしたくないんだろう。まだ引率がいなければそうでもないんだろうけど、変に子供がされるような注意をされたくないんだろうな。
で、工場に着いた。工場は錆びたトタンの壁の、ちょっと大きいくらいの建物だ。多分元の色は空色だったのかな、そこに軽自動車位ある大きいフォークリフトがパレットにたくさんのジュースの入った箱を乗せて公道を使って工場の隣にある倉庫に運んでいる。
後で聞いたけど倉庫の方は後から作ったらしい。ちょっとだけ、ほんのちょっとだけ新しい感じの倉庫はなぜか緑の壁で、ジュースのロゴが描いてある。ほんのちょっとだけ売れるとほんのちょっとだけ設備投資されるんだとちょっとだけ感動した。こんな寂れた住宅街の片隅にもほんのちょっとだけの好景気があったのか。
まあ全然全国区じゃないから気楽ではあるんだけど、それでもいかにも「工場」「ガチの会社組織」に思えて、少し気後れする。
工場の中に入ると、いかにもワンマン経営そうな還暦くらいのおじさん、おじいさん? が変なテンションで迎えてくれた。
「じゃあ、みんなにおいしいジュースの作り方を見せていくからね」
そういって俺らおじさんたちはどういう感情でそれを見ればいいかも分からず、純粋な小学校低学年でも生意気な中学生でもない、虚無の表情でその流れに身を任せた。目の前のベルトコンベアのジュースと俺たちは一緒なんだろうか。なんてくだらないことを思っているうちに見学は終わった。
「じゃあ、明日からの担当を決めようか」
つづく
こどおじ限界集落 豊田とい @nyakky
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。こどおじ限界集落の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます