第2話 陰謀
「町会で決まったことがあるの、もちろん強制じゃないけど、ちょっと町内会館に来て欲しいの」
根田太一は矯正とは何だろう、恐らく厄介な事だろう、と直感的に思った。このおばさんは町内会の世話役みたいな人で、商店街(の慣れの果ての道で最後に残った床屋と肉屋の)の肉屋のおばさんだ。子供の頃たまに外に出ると声をかけてきてコロッケをくれた人だ。いい人だけど、いい人が俺にとって都合のいい人である場合は少ない。
「それは、本当の意味で、強制じゃない?」
「うーん、本当の意味では強制なのかしらね」
根太は「だろうな」と思った。いや、もちろん意固地になって拒否し続けることはできる。でも事あるごとにこの話題を出されるとどうしても折れてしまう。ゴミ出しの時とか、自販機にジュースを買いに行くときとか。そういう心の弱い男なのだ。
「で、何をされるんですか?」
根太が思いっきり怪訝な顔をして尋ねる。
「まあ、それはみんなが集まってから発表ね」
おばさんは笑顔で答える。それが満面の笑みか若干シリアスな話をしないといけないために少し曇った笑顔かは根太には判断がつかない。
根太はしぶしぶ了承してその場を回避した。どうせみんな来るんだろうな、と思った。この辺の底辺のおじさんは強面だが一般人に弱い。知らない人、自分と変わりない位のカーストの人間には譲らないけど、睨みつけても効かない、というか通報が信じてもらえそうな常識的な人には、底辺おじさんにしか理解できない言いがかりのようなムカつく事があっても目を背けて無視するしかできない。
だから余程気合い入れてるガチの引きこもりでもない限り、適当に相手を満足させてそれで済むなら自分のプライドなんて捨てて、こそこそ行ってこそこそ帰ってくるくらいのことはする。だからまあ殆どのおじさんは集まると予想した。
何か町内会の活動でもやらされるんじゃないかと根太は予想する。まあ町内会の会館の中かその近辺で見知ったおばさんと何かするくらいならまあ何とかなるんじゃないかと、脳内でおばさんと草むしりするシミュレーションなどを繰り返す。
ほかのおじさんはほかの所で仕事するだろう、と希望していたのでおじさんの一人づつ付くには何人必要か、そのために気のいいおばさんが何人来るかを考える。
そんな妄想をとっくに着いている自宅の玄関前で考えていた。
根太は心理的に耐えられないとき、家の中にいると滅入ってしまうので、深夜に家を抜け出すことがよくあった。今は昼なので自宅の敷地の中のせめてもの「外」と呼べる場所で心を鎮めていた。
「今度の日曜日、朝の10時か」
つづく
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