こどおじ限界集落
豊田とい
第1話 幼いころから十数メートルの距離にいる知らない隣人たち
今日もいつものうP主の動画をあらかた見終わった男は自分の部屋の窓を開ける。いつものチャンネルのいつものシリーズの動画をあらかた見終わった充実感で生まれてからこの方住んでいる実家の自分の部屋の窓を開ける。男の部屋は子供の頃から変わっていない。窓の外は昔老夫婦が住んでいて、両方亡くなった後、相続者もいなかったらしく、隣家にどういう経緯か買い取られて庭になっている。そういうこともあって男の部屋からは少し視界が開けている。しかしいつもこうして薄暮の空を独り占めしようとしていると邪魔が入る。庭を買い取った家とは別の家の2階からおじさんが同じ様に窓を開けて息抜きをしてくる。そのおじさんは男と同じくらいの年齢だろうか、無精ひげを生やして目つきが鋭い、こちらのことを、同じように邪魔だと思っているのか睨みつけてくる。しかしそのおじさんの部屋もまたシールのべたべた貼ってある子供の頃からの机が見えているので怖くはない。人間が怖いから威嚇するのだ。だから男がぎこちない笑顔で会釈して目をそらすと、おじさんはいたたまれなくなるのか、頑張って少し睨みを続けた後、何か用事でも思い出したかのような仕草をして窓を閉めてしまう。
ここの地区は老人が多い。そしてその息子がフリーターになる率も高いらしく、いわゆるこどおじが多い。両親がいるうちはまだいいが、結構孤独死なんてのもあるらしい。この男も結婚もしてないし、多分できないし、恐らくこのまま両親と暮らすだろう。そしていつか半生の状態でとろけて発見されるんだろう。とはいえこの状態から抜け出すなんてできない。今更正社員の肩書もない中年を雇う所なんてないだろうし、第一命令されること自体プライドが邪魔してやっていけないだろう。この男そんなような奴だ。
この男は「ぬめり男」という多少の自虐的な名前で各種動画サイトやSNSにアカウントを持っている。本名は根田太一、50過ぎの現在完全な無職だ。今は年老いた両親の介護をしている、という体裁で生きている。両親は高齢ながらまだ元気で、ケアマネはいるものの、買い物を頼むくらいで大して生活に不自由はない。だから、下から親に呼ばれたときに顔を出すくらいで後は動画を見て、たまに下手なイラストを描いて投稿して時間をつぶしている。
あまり両親と顔を合わせているとプライドが邪魔をして言い争いになるから、という考えで細かく両親の世話はしていない。それでもその時間が永遠に続けばいいとも思ってるし、イラストでバズって早く両親を施設に入れてゲーム会社のキャラデザに選ばれて賞賛されたいと思っている節もある。
ある時この地区の状態を見かねた町内会のおばさんたちから提案があった。本当に余計なことを会議で決めてくれたもんだ、とこの後哀れなおじさんたちは嘆くことになる。
つづく
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