僕とフリマと校庭で

崇期

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 音楽室に飾られていた肖像画はベートーヴェンじゃなくて、『セロ弾きのゴーシュ』のゴーシュだったよね、僕らの学校。そう、それから、校庭の百葉箱ひゃくようばこには三葉虫さんようちゅうの化石が入れられてあった。あの母校、旧小学校の校庭でフリーマーケットが開催されるらしいんだ。君には真っ先に知らせたくてさ。何月だったか……秋にさ、三連休があるだろ? フリーマーケットって、正規の商業許可証を持っていない一般の人たちが品物を持ち寄って売る、あののみの市のことだよ。


 そうそう、あの世界的ロックバンドの名盤、ジャケットの横断歩道がさ……憶えてる? 廃園になったことが理由で全国各地の動物園に引き取られていった動物たちが「三年ぶりに集まらない? 近況報告し合おうよ!」ということになって、中国に返されていたパンダも政府から渡航の許可がおりて日本に来られることになったみたいで、それはもう、みんなでどんちゃん騒ぎさ。二次会まで行ってしこたま酔っ払ったシマウマが、そのまま道路でうたた寝しちゃって──道路工事とかって、交通量が少ない夜間にされることが多いでしょ?──で、ふと目が覚めたら体に横断歩道が描かれていて、慌てて動物園に飛んで帰ったら、飼育員さんから「たしかに外出許可証はもらってたけど、朝帰りするなんて、なに考えてんの!? 今日のえさ、抜きにすっから」って怒られ、ガールフレンドのシマウマからも、「その体どしたん? めっちゃウケる!」って大笑いされたっていうユニークな歌詞の表題曲にちなんで作られたあのジャケット! あれって、なんか良いよね。ああいうセンス、アイディア、一般人にはなかなか思いつかないよ。話題になったよね。あのレコードが出品されてたら、迷わず買うって話だよ。


 ところでさ、小銭を一枚ずつ細い穴のあいた容器に投入していくと、徐々に金額が増えていくという仕組みが世の中にはあるらしいんだけど、あれって本当かな。

 手元からなくなっていくのに、増えている、と思わせるなんて、おもしろいトリックだよね。とりあえず目の前からお金を消してしまう、というのがミソなんだって。それで、真夜中に天井裏でこっそり靴作りを行う妖精がいるみたいに「やがてお金持ちになる」という自己暗示をかけるらしい。


 いや、僕はそんなの、信じてないよ。だから一度もやったことはない。今度のフリーマーケットでも気に入った物があれば遠慮なく買うつもりだよ。たまにはいいじゃない、そういう散財をして、浮かれたってさ。羊毛フェルトを折り折りしてぎゅうぎゅうして針でぷすぷすして作るぬいぐるみとか、黒ずんできたら削り直して新品みたいにしてくれるしトントンという音が心地良いから料理研究家がこぞって勧めているというイチョウのまな板なんかも、僕たちが話しているレコードと同じくらい、誰かにとっては価値のある物なんだよ。


 ヴォーカルの人の手書きのサインが入っているのにブックオフで二百五十円で売られているCDを発見したときの腹立たしさみたいなものがさ、僕たちにはあるから。


 まあ、だからといって、君にも買い物を強要するつもりはないよ。こづかい一日五百円なんだろ? わかってる。無理はしない方がいい。ただ一緒に見て回れたら楽しいだろうなって思っただけ。


 フライはフライでも食べられないフライはな〜んだ? 答え──フライパン。


 生活科は50%の社会と50%の理科で出来ているわけではない。


 

……学校で昔、流行はやったろ? えーっ、憶えてないのかよ。まあいいや。じゃあ、校庭で待ってるから。そのときに。

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僕とフリマと校庭で 崇期 @suuki-shu

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